経済学用語集

経済学用語集の動画一覧

【ミクロ経済学】
加重限界効用均等の法則21分07秒
ギッフェン財24分44秒
自由財19分13秒
代替効果と所得効果①-概要編-25分56秒
代替効果と所得効果②-詳細編-30分26秒
代替効果と所得効果③-演習編-46分49秒
水とダイヤモンドのパラドックス26分24秒
【マクロ経済学】
帰属計算26分14秒
クラウディング・アウト14分39秒
古典派の第一公準34分00秒
古典派の第二公準17分05秒
労働者錯覚モデル23分39秒
流動性の罠①(前半)8分26秒
流動性の罠②(後半)21分42秒

加重限界効用均等の法則

加重限界効用均等の法則21分07秒

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・ 加重限界効用は「貨幣の限界効用」とも呼ばれますか?
(回答)
 加重限界効用は「貨幣の限界効用」や「貨幣1単位当たりの限界効用」と呼ばれることがあります。

・ MUx/Px > MUy/Py において、効用を最大化するために、MUy/PyからMUx/Pxに1円分移動させるという話でしたが、元々値が小さい方から更に1円分引くというのはどういうことでしょうか?
(回答)
 良いご質問です。(むしろ、私の板書のやり方に誤解を与えてしまう部分があるのではと反省です)
 まず、「1円分が移動する」とはどういう状況なのか、明らかにしておきます。
 授業の例だと、元々
  X財に30円、Y財に70円だけ支出する
ということでした。
 ここで、授業で示したように1円分が移動すると、
  X財に31円、Y財に69円だけ支出する
となります。これが「1円分が移動する」ということなのです。
 これは「Y財への支出からX財への支出に1円分が移動する」ということを意味しています。
 授業では、板書の都合上「MUy/PyからMUx/Pxに1円分が移動する」というように見えてしまったかもしれませんが、文章で正しく表現すると、上で書いたように「Y財への支出からX財への支出に1円分が移動する」ということなのです。(つまり、MUy/Pyの値から1円を減らして、MUx/Pxの値に1円を追加するという意味ではないのです。あくまで、Y財への支出から1円を減らして、X財への支出に1円を追加するということなのです)

・ Y財に対する支出を「70円から1円減らすことで減る効用」と「70円から1円増やすことで増える効用」には厳密に言うと差がありますよね?
(回答)
 ご指摘いただいた通り、「70円から1円減らすことで減る効用」と「70円から1円増やすことで増える効用」には厳密には少し差があります。
 例えば、限界費用の話であっても、「生産量を1つ増やしたときに増加する費用」と「生産量を1つ減らしたときに減少する費用」は若干異なります。ただし、微分という数学の取り扱い上、「生産量を(極めて微小な)1単位分増やしたときに増加する費用」と「生産量を(極めて微小な)1単位分減らしたときに減少する費用」は完全に一致することになるのです。
 授業では、そういった細かい話に踏み込むのは感覚的に分かりにくくなりますので、「70円から1円減らすことで減る効用」と「70円から1円増やすことで増える効用」は等しいように言ってしまっているのだとご理解ください。

ギッフェン財

ギッフェン財24分44秒

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・ 江戸時代の日本における、「あわ」「ひえ」はギッフェン財になりますでしょうか?これがギッフェン財ならば18〜19世紀頃の多くの国でギッフェン財が存在していたような気がします?
(回答)
 「あわ」や「ひえ」は下級財として考えて間違いないと思います。ただし、下級財のすべてがギッフェン財になるわけではありません。
 歴史上、「あわ」や「ひえ」の価格が上がったにも関わらず、「あわ」や「ひえ」の購入量が増加したというような事実が史料から見つかったのであれば、ギッフェン財の例として考えてもよいと思います。日本経済史の分野でそのような研究があれば良いのですが、私はそのような研究を聞いたことがありません。
 ちなみに、英語版のWikipediaにはGiffen goodの説明文に、経済学者のマーシャルは、ギッフェン財の典型的な例は「品質の劣る主食」であると指摘したと書かれています(マーシャルの主著である『経済学原理』が出所だそうです)。確かに、当時のアイルランドにおけるジャガイモは「品質の劣る主食」でした。「あわ」「ひえ」も近いものではないでしょうか。あとは、史料からきちんと実証されて、「あわ」「ひえ」もギッフェン財だと言えるのだと思います。

・ なぜX財の価格が下がったら予算線が右シフトするのでしょうか?価格が下がるなら左シフトではないですか?
(回答)
 X財の価格が下がって予算線が右にシフト(縦軸切片を中心に反時計回り)となる理由は、はじめよう経済学の第3講その②の動画をご参考にしてください。
 予算線が左の方に移動するということは、直観的には、予算が減って全体的に買える量が少なくなることを意味します。X財の価格が下がるということは、全体的に買える量が多くなるはずですので、やはり予算線は右の方にシフトしなければなりません。

・ 授業スライド4で予算線変化後の無差別曲線は、なぜその位置になるのでしょうか?
(回答)
 「そのようになるような好み(効用関数)を持つ個人を考えているから」
ということになります。
 つまり、X財がギッフェン財、Y財が上級財であるような好みを持った人を考えれば、予算線変化後の無差別曲線がスライドにあるような位置にくるということです。
 ところで、第5講のみんなの質問(以下、URL)で「授業スライド14で、…」と「X財が○級財、…」から始まる2つの質問が今回の質問に関連しています。
https://introduction-to-economics.jp/main-content/#g

・ ギッフェン財であるX財での所得効果が↓↓になるのは分かるのですが、なぜ上級財も所得効果が↑↑と上回っているのですか?上回るのはギッフェン財だけではないのですか?
(回答)
 ご指摘のように、X財がギッフェン財である場合、Y財(上級財)も所得効果が代替効果を上回ることになります。この理由は次のように、よく考えてみると当然なのです。
 まず、X財の価格が下がった(Px↓)とします。X財はギッフェン財ですので、(全部効果の結果)消費量は減少します。今は2財モデルを考えていますので、X財の価格が低下してX財の消費量が減少すれば、Y財の消費量は必ず増加します。(Y財の消費量が増加しないと、所得が余ってしまうためです)
 これを(Y財に対する)全部効果>0と表現するとしましょう。
 次に、X財の価格が下がっているので、Y財に対する代替効果は必ずマイナスになります。これを(Y財に対する)代替効果<0と表現するとしましょう。
 ここまでをまとめると、Px↓による(Y財に対する)
  全部効果(>0)=代替効果(<0)+所得効果
となります。
 この式を満たすためには、所得効果は必ずプラスの値でないといけなく、しかも、代替効果を(絶対値で)上回るほどのプラスの値でなければならないことがわかるでしょう。
 以上の理由から、X財がギッフェン財である場合、X財の価格変化によって、Y財(上級財)も所得効果が代替効果を上回ることになるのです。

自由財

自由財19分13秒

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・ 自由財という財を考える必要性について教えてください。
(回答)
 経済学の古典的な問題として、「均衡価格が存在するのか?」といった問題があります。
 これについては、1950年代後半には均衡価格の存在が数学的に証明されています(市場均衡の存在定理;神取道宏(2014)『ミクロ経済学の力』日本評論社 を参照)。その証明の際に、より一般的な財の概念も踏めるため、自由財も含めた証明がされているのです。
 こういった小難しい話を持ち出さなくても、私が授業で説明したように、通常の財(経済財)から自由財になるようなケースも考えられることから、自由財という特殊な財を考える意義はあるかと思います。(ただ、自由財に関して積極的に考えることはあまりしませんので、マイナーな論点であるとご理解ください)

代替効果と所得効果

代替効果と所得効果①-概要編-25分56秒
代替効果と所得効果②-詳細編-30分26秒
代替効果と所得効果③-演習編-46分49秒

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授業スライド②ノートなしノートあり
授業スライド③ノートなしノートあり

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・ 2財モデルで所得が減少するときは、上級財が含まれない組み合わせを考えることはできますか?
(回答)
 授業スライド18にある通り、上級財を含まないモデルを考えることは出来ません。所得が減少する場合でも同様に、上級財を含まないモデルを考えることはできないのです。

・ 授業スライド8に関して、X財が上級財の場合、X財の価格が下落した際の最適消費点Cの位置はなぜAの右上なのでしょうか?yの数値は変わらず、xのみが増加することで、新しい最適消費点はAの真横に位置すると考えました。
(回答)
 なるほど。つまり、価格が下がったのはX財のみなので、影響を受けるのはX財に対する消費量のみではないか?という直観に基づいた上でのご質問かと思いました。
 例えば、U=xyという効用関数は、「X財とY財の消費量の組み合わせ」から私たちの効用が決まると考えます。(しかも、限界代替率が逓減するというより現実的な仮定も組み込まれています)
 これにより、一方の財の値下げによって新しい予算線が描けたとすると、私たちは効用を最大化するように「X財とY財の消費量の組み合わせ」を再考すると考えるのです。このように、価格が下がった財に関してのみ消費量を再考するのではなく、「X財とY財の消費量の組み合わせ」を考え直すことになるので、Y財の消費量が以前と等しくなるとは限らないです。

・ 代替効果と所得効果①の「概要編」の講義では、スタート地点とゴール地点を最初に決めるとのことでしたが、代替効果と所得効果③の「演習編」の講義ではA→B→Cの順番で導いています。すべて「演習編」の講義で行ったような導き方で覚えて問題ないのでしょうか?「演習編」のやり方を「概要編」で取り扱わなかったのは何か意味があるのでしょうか?
(回答)
 「概要編」の講義では、全部効果を、代替効果と所得効果に分けるという観点から、A→C→Bの順番で説明をしました。今回の講義「演習編」では、(矢印がたくさん書かれている)表からグラフを描くという観点から、A→B→Cの順番で説明をしています。
 どちらの説明にも本質的な差はありませんので、どちらで覚えていただいても構いません。
 「演習編」の講義では様々な例題に触れていますので、A→B→Cの順番で導くやり方の方が覚えやすいと感じられたのであれば、「演習編」でのやり方で覚えられてはいかがでしょうか。

水とダイヤモンドのパラドックス

水とダイヤモンドのパラドック26分24秒

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・ ダイヤモンドには希少性ではなくて差別性があるのではないでしょうか?ダイヤモンドをもっていることで、人よりも優越感を得らえられます(優越感=差別性)。人気アイドルが作った鶴ならば差別性があるでしょうが、一般人が作った鶴では差別性はないということです。
(回答)
 鋭いご指摘かと思います。
 ダイヤモンドを持っていることで優越感が得られるという意味での差別性があるため、ダイヤモンドの価格が高くなっているというご指摘は正しいと思います。ただ、希少性と差別性では論点が異なってしまいますので、私が希少性という言葉を出して説明した箇所(授業スライド1)を、差別性という言葉に代えて説明することは出来ないのです。
 差別性とは、消費者がその商品のブランドに対する好みであったり、おっしゃっていただいたような優越感からくるものですので、あくまで需要に関する話になります。そうすると、差別性の有無はその消費者が感じる限界効用の大きさに帰着されることになります。
 私が希少性という言葉を挙げて説明したことの理由は、希少性が需要面ではなく供給面の内容であるからなのです。(供給量が少ないという意味で希少性という言葉を用いました)
 差別性という言葉を用いてダイヤモンドが高価格であることを説明すると次のようになるかと思います。
「ダイアモンドには優越感からくる差別性というものは確かにあり、優越感が大きければ大きいほど、得られる限界効用も大きくなるので、ダイヤモンドの価格は高くなる」

・ 水とダイヤモンドのパラドックスに関して、これを消費者余剰を使って説明する場合、どのような説明になるのでしょうか?
(回答)
 この動画の内容は、消費者余剰を使って(正確に)説明することは簡単ではないので、あえて消費者余剰の話を出しませんでした。動画で説明したように、一般的には限界効用曲線と需要曲線は異なるからです。
 また、消費者余剰は需要曲線を使って求めるものですので、限界効用の話から消費者余剰の話へと繋げるには、他にも知っておかなければいけない知識があるのです。
 水とダイヤモンドのパラドックスと消費者余剰の関係を説明している教科書を紹介するに留めさせていただきます。
  八田達夫(2013)『ミクロ経済学Expressway』東洋経済新報社
 この本の108ページに水とダイヤモンドの消費者余剰が次のような図で示されています(必要箇所のみ手書きで抜き出してみました)。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/01/note20210110.pdf
 水は価格が低いが消費者余剰は極めて大きく、ダイヤモンドは価格が高いが消費者余剰は小さいことが描かれています。

・ 財の消費から得られている総効用が大きい(小さい)場合には、限界効用が小さい(大きい)と言えますか?
(回答)
・ 消費量が増えれば総効用も増える
・ 消費量が増えれば限界効用は減る
 これらを仮定していますので、総効用が大きいときには限界効用が小さくなっていると言って構いません。
 また、効用関数の設定次第では、総効用の値が小さく(大きく)、限界効用の値も小さく(大きく)できますが、効用の値は相対的なものなので本質的な議論ではなくなってしまうように思います。(このため、値が大きい小さいとはどの程度の大きさなのかといった議論はなしとします)
 ちなみに、これらの仮定が成り立たないような財を考えることはできます。例えば、限界効用が逓増するような財があるとすれば、総効用も大きく(小さく)、限界効用も大きい(小さい)といったことも考えられるということです。

・ コブ=ダグラス型の効用関数では連立方程式を解かなければ需要曲線が得られないのに対し、準線型効用関数を用いた場合には、より簡単に需要曲線が求められるということですね?
(回答)
 まさにその通りで、コブ=ダグラス型の効用関数では、効用最大化条件と予算制約式の連立方程式を解いて、需要関数を求めることになるのですが、準線形効用関数では効用最大化条件のみから需要関数がわかってしまうのです。
 その理由は、準線形効用関数を仮定するとX財が中級財となり、X財に所得効果が働かなくなるからです。X財に所得効果が働かないということは、所得が多くても少なくてもX財の消費量が変わらないということです。つまり、予算(所得)について考慮する必要がないので、予算制約式との連立方程式を解く必要がないのです。
<補足>
 導出など詳細は割愛させていただきますが、所得が小さすぎるとき(I< 1/(4px))は、所得Iの減少に伴いX財の消費量が減るといったことが起きます。このようになる理由を直観的にご説明させていただくと、所得Iが十分にある状況から所得Iが減少すると、X財の消費量は変わりませんので、Y財の消費量が減っていくことになります。そしてある所得水準(I=1/(4px))のときに、Y財の消費量がゼロとなります。所得Iがそれを超えて小さくなると、X財の消費量を減らさざるを得なくなるのです。

・ 所得効果がないということは、代替効果のみでX財の需要量が変化すると考えてもよろしいでしょうか?
(回答)
 その通りです。所得効果がないということは、価格が変化した際に、代替効果のみでX財の需要量が変化することになります。つまり、全部効果=代替効果ということですね。

帰属計算

帰属計算26分14秒

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・ もし、農家ではなく趣味で自分がりんごなり果物なりを作るとします。この場合作ったものを自分で消費したら、自家消費と見なしてGDPに含まれるのでしょうか?
(回答)
 動画内でご説明させていただいたように、農家の自家消費ですと、その額は推計されて得られることになります。つまり、自家消費に関する計算モデルがあり、それを用いて計算されるのですが、趣味での家庭菜園についてはどうかというと、趣味での家庭菜園の生産額を求めたり、消費額を求めたりするような計算モデルはありません。そのため、家庭菜園に関してはGDPに含めないことになります。
 ただ、家庭菜園とはいえ、付加価値を生んでいますので帰属計算すべきかもしれませんが、経済全体の付加価値の規模から考えるとごくわずかであると考えられるので無視しても良いということになるのでしょう。

・ 授業スライド4で、GDPは100円増えると書いていますが、GDPは中間生産物を引くはずではないでしょうか?
(回答)
 この場合のりんごは、消費者に販売されており最終財と考えることができますので、このりんご1個100円は最終生産額としてGDPに含められることになります。
 中間生産物とは、りんごが中間財(つまり、原材料)として利用される場合に相当しています。例えばりんごジュースの話が出てくると、りんごは中間財として見なされて、そのりんごの中間生産額を(GDPからではなく)総生産額から差し引くことになります。

クラウディング・アウト

クラウディング・アウト14分39秒

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・ 貨幣需要の利子弾力性が小さければ、財政支出を増加させると利子率の上昇が大きいので、グラウディング・アウト効果は大きい。この考え方は合っていますか?
(回答)
 合っています。
 図を用いて説明させていただくと次のようになります。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/11/note20211107.pdf
 貨幣需要の利子弾力性については、私の授業では現時点で取り扱っていませんので、貨幣需要の利子弾力性が小さければLM曲線の傾きが急になることのご説明はここでは割愛させていただいていることをご了承ください。

・ 政府が国債発行などをしてGを上げたとすると、資金の貸し手である民間銀行が金利(利子率)を上げるから投資が減ることに関して、この場合はどういうプロセスで、なぜ金利が上昇するのでしょうか?
(回答)
 まず、この動画における金利上昇のプロセスは、次のような流れになっています。
Step1 政府支出Gの増加に伴う総需要の増加で、国民所得Yが増加する。
Step2 国民所得Yの増加により、取引的動機に基づく貨幣需要と予備的動機に基づく貨幣需要(L1)が増加する。(はじめよう経済学 第13講「貨幣と債券」の動画授業を参照)
Step3 貨幣市場において、貨幣需要曲線が右シフトする。
Step4 利子率r(金利)が上昇する。
 ここで(授業中には混乱を避けるために説明していませんでしたが)政府支出Gの財源はまったく考慮していなかったことに注意しなければなりません。これは、国債の新規発行(や増税)はせずに、政府支出Gの値を増加させたというストーリーを前提としている、言い換えると、政府支出Gを外生変数(自由に値を変更できる変数)と見なしていることになります。
 このように財源を考えないことはあまり現実的ではありませんが、「国債の新規発行をしなくてもクラウディング・アウトは起きる」というエッセンスは重要かと思います。
 話が迂回してしまって申し訳ありませんが、ここからがご質問に対する直接的な回答です。
> 政府が国債発行などをしてGを上げたとすると、資金の貸し手である民間銀行が金利を上げるから投資が減るという解釈です。この場合はどういうプロセスで、なぜ金利が上昇するのか疑問に思いました。
 これは国債の市中消化のケースですね。
 まず、政府が国債発行をしなくてもGを増やせば、上記で説明したように金利は上昇します。しかし、国債発行も考えると、次のようなストーリーも加わることになります。(例えば、浅子和美・倉澤資成・加納悟(2009)『マクロ経済学 第2版』新世社、p.355を参照)
Step1 Gの財源として政府が新規の国債発行をする。
Step2 債券の供給量が増えるため、債券(国債)価格は低下する。
Step3 債券価格の低下は、利子率rの上昇を意味する。(これも第13講の動画を参照)
 これが、国債発行に伴う金利上昇のストーリーになります。
(このストーリーは、通常のIS-LM分析におけるクラウディング・アウトの説明では無視されていることが多いように思います)

・ 政府の発行した国債を日銀が買うとするならば、民間人へ資金を貸す民間銀行の利子率の上昇とは関係が薄いと思うのですが、どういうことになっているのでしょうか?[直前の質問の続き]
(回答)
 これは国債の中央銀行引き受けのケースに相当しますが、このケースと市中消化のケースの違いは、中央銀行引き受けではマネーストックが増加し、市中消化ではマネーストックは変化しない、という違いになります。
 ともあれ、直前の質問に対する回答でもご説明したように、国債の新規発行がなくても金利は上昇するということや、国債価格の低下から金利が上昇するストーリーは、国債の中央銀行引き受けのケースでも存在することになります。

・ 授業スライド3において、LM曲線の傾きが非常に緩やかなら利子率rが上昇する前の国民所得(B 点)が実現できますね。したがって、拡張的財政政策と中央銀行の金利引き下げを合わせて実行すれば貨幣市場でクラウド・アウトしない状態の均衡国民所得が達成できるのではないでしょうか?
(回答)
 LM曲線の傾きが非常に緩やかな状況は、「流動性の罠」の状況に対応しています。確かに、流動性の罠の状況では、拡張的財政政策によってB点が実現できます。
 後半の点に関してもその通りでして、拡張的財政政策と金融緩和政策の両方を上手く使うことで、LM曲線の傾きが非常に緩やかでなくても、B点が実現できることになり、クラウドアウトしない状態の均衡国民所得を達成することができます。ちなみに、この点に関しては各種試験でもよく問われる内容になっています。

・ 「政府支出の拡大によるクラウディング・アウトは貨幣需要の利子率感応度が低い場合の方が高い場合より大きい」とはどういうことでしょうか?
(回答)
 次のリンク先に図を描いて説明させていただきました。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/02/note20210224.pdf
 この図を見て頂くと、LM曲線が急である場合には、利子率rの上昇が大きく(そのため投資Iが大きく減少することで)、クラウディング・アウトが大きくなっていることが分かります。

・ 最近の先進国データではクラウディング・アウトは起こっていないとして、クラウディング・アウト理論は眉唾扱いなのでしょうか?
(回答)
 現在の日本のように金利が低く・変化しにくい状況では、クラウディング・アウトはほとんど起きないと考えてよいでしょう。
 クラウディング・アウトが実際に起きたかどうかの実証研究は、世界中で数多くあります。
(例えば、「財政政策とクラウディング・アウトに関する実証研究:展望」とネットで検索してみてください。このタイトルの論文(PDFファイル)がヒットするかと思いますが、これまでのクラウディング・アウトの研究が上手くまとまっています)
 結論としては、これまでにクラウディング・アウトが起きた事例は世界中で数多くあるが、現在の先進国で見られるような低金利の状態では、財政政策に伴うクラウディング・アウトについて、あまり意識をする必要がなさそうです。
[参考文献]
小塚匡文、平賀一希、藤井隆雄(2012)「財政政策とクラウディング・アウトに関する実証研究:展望」国民経済雑誌、205(4) : 71-82.

・ クラウディング・アウトはこじつけの議論、議論のための議論のような気がします。実際の経済の動きはどうなるかを考えるとおかしいのではないでしょうか。景気が良くなれば利子率が多少上がってもそれ以上に儲かるなら投資はします。高度成長時の銀行の利率は8%とか平気であったように記憶してますし、その当時は皆がんがん投資してましたね。
(回答)
 通常、クラウディング・アウトはこの動画で説明しているようにIS-LMモデルを用いて説明するわけですが、このIS-LMモデルには仮定が置かれています。
 例えば、物価Pが変化しない程度(具体的には1年以内)の短期を対象にした分析であるということです。(はじめよう経済学+(Plus) 第7講①の動画で説明しています)
 つまり、高度経済成長期のように物価が上昇したり、ある程度長期のスパンで考える必要がある経済の動きは、単純なIS-LMモデルの分析対象から外れてくるのです。例えば、長期の分析では経済成長論など、別の論点を学ぶ必要があります。
 より深く学習される際には、その経済モデルはどのような特徴があったかを振り返りながら学ばれると、経済モデルで説明できることの限界が見えてきたりしてより理解が深まるのだろうと思います。

・ 例えば、三角形の面積を求める公式を用いて100個の三角形のうち、90個の三角形の面積を求める事は出来たが、10個については面積を求めることができなかったなんて事は起こりません。つまり、1つでも例外的な事象が起きると理論が間違えてるって事になると思うのですが、一部で言われているクラウディングアウトが起こらなかったとの主張は正しい指摘なのでしょうか?
(回答)
> つまり1つでも例外的な事象が起きると理論が間違えてるって事になると思うのです
 その考え方は正しいのですが、例外的な事象が起きたと判断することは難しいことなのです。例えば、
「拡張的財政政策をしたけれど、金利は上昇せず、投資も減少しなかった。だから、クラウディング・アウトの考え方は誤っている」
と簡単には言えないのです。
 もしかすると、拡張的財政政策で金利を上げる力は働いていたけれど、その他の要因で金利が上がらなかったのかもしれないのです。このように経済は様々な要因で動きますので、論証することは簡単ではないのです。
> 一部で言われているクラウディングアウトが起こらなかったとの主張は正しい指摘なのでしょうか?
 その主張がきちんとした実証結果に基づくものであれば、ある程度正しいと判断してもいいと思います。
(ただ単に、財政支出と金利の関係を散布図で描いて、クラウディング・アウトは起きていないとの説明は上記で説明したように証明にはならないので注意しなければなりません)
 直前の質問者へ紹介した論文、小塚・平賀・藤井(2012)では、世界各国でクラウディング・アウトが起きたか起きていないかの実証分析がまとめられています。
 私はクラウディング・アウトの実証分析をしたことがありませんので軽はずみなことは言えませんが、クラウディング・アウトの理論自体は正しいが、クラウディング・アウトが強く働くか、弱く働くかは、国や経済状況によって異なり、金利がほとんど動かない現在の日本のような状況ではクラウディング・アウトが働いたとしても非常に弱いものになっている、ということではないでしょうか。

古典派の第一公準

古典派の第一公準34分00秒

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・ みんなの質問

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・ MPnの単位は「個」で良いのでしょうか?Yは国民所得であったので、MPnの単位も「円」など金額を表す単位ではないのでしょうか?
(回答)
 Yのことを国民所得と呼んできましたが、正確には、Yは実質GDPになります。(ちなみに、Pを物価としたとき、P×Yが名目GDPです)
 そのため、Yの単位としては「円」とするような金額単位になります。ただし、実質GDPというのは価格を基準年で固定していますので、実質GDPの変化は販売「量」(もしくは、生産「量」)の変化を表しているようなものなのです。
 そのため、Yを生産量と考えることは本質を突いていることにはなるのです。

・ ケインズが考える労働市場において、技術革新によってNd曲線が右シフトして、Nsの折り曲がったところの一歩手前まで進んだと思いますが、①もし仮にNsの折り曲がったところより右のほうに超えてしまったら、Ns<Ndという超過需要(完全雇用を超えている?)が生じますか?②それとも、古典派の立場で折り曲がったところでは完全雇用が実現されたからそれ以上右に進めなくなるでしょうか?
(回答)
 大変良い質問です。
 技術進歩によって、Ns曲線の折れ曲がった位置よりも右側までNd曲線がシフトしてしまえば、その交点において、新たな完全雇用状態における均衡労働量が実現することになります。(ちなみに、交点の高さは新たな均衡(名目)賃金です。超過需要が解消されるように名目賃金が上昇するということです)
 それによって、元の完全雇用国民所得よりも、高い完全雇用国民所得が実現することになり、結局、AS曲線はさらに右シフトするのです。(そのため、答えとしては書いていただいた①に近いですね)
 これをグラフで描けば次の通りです。ご参考にしてみてください。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/09/note20210917.pdf
 ただ、ケインズ派を考えているのであれば、非自発的失業が存在する際の議論をすべきですので、今回のケースのような元の完全雇用国民所得水準を超えるようなケースを扱うことは、本来おかしな話だとは思います。

・ マクロ生産関数の技術革新には、資本Kの変化は含まれますか?
(回答)
 「資本K自体の増加」を技術革新と呼ぶことはありません。
(ただし、資本節約的な技術革新(ソロー中立的技術進歩)という考え方はあります)

・ 短期にも関わらず技術革新による限界生産力曲線(労働の需要曲線)の右シフトを想定することは、非現実的な気がします。
(回答)
 確かに、ケインズ派のモデルでは短期を考えているのにも関わらず、技術革新を考えることは短期という用語の使い方に自己矛盾があるように思えますね。
 ただ、この点に関しては、ある時点において外生的な技術ショックが起きたと想定してしまうことが多いです。内生的な技術革新は起きないが、外生的な技術ショックは短期モデルでも加味することがありますね。

古典派の第二公準

古典派の第二公準17分05秒

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労働者錯覚モデル

労働者錯覚モデル23分39秒

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流動性の罠

流動性の罠①(前半)8分26秒
流動性の罠②(後半)21分42秒

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・ 流動性の罠の状況では、投資Iが増えることはないと思うのですが、それはつまり投資Iが減少すると考えていいのでしょうか?
(回答)
 IS-LM分析では、投資Iの値が変化する主な要因は利子率rだと考えています。
 つまり、
  利子率rが上昇すれば投資Iは減少する、
  利子率rが下落すれば投資Iは増加する、
  利子率rが変化しなければ投資Iも変化しない、
と考えるわけです。
 したがって、流動性の罠に陥っている状況では、利子率rが変化しませんので、投資Iも変化しないと考えることになります。

・ 流動性の罠の状況ではIS曲線が水平になると習った気がするのですが、この動画を見ると、LM曲線が水平であることの間違いだったと気が付きました。
(回答)
 流動性の罠の状況ではLM曲線が水平になりますので、IS曲線が水平だというのは間違いですね。
 この授業では用いていない用語を用いると、流動性の罠とは「貨幣需要」の利子弾力性が無限大と言う状況に対応しています。貨幣需要、つまり、貨幣市場に関する話ですので、流動性の罠はLM曲線に関する話でないとおかしいのです。

・ 債券の価格と利子率が逆の動きをすることについて、これは100円の債券で金利(利子率)が5%とした場合、この債券が80円まで下落すると金利が高くなるという解釈で間違いないでしょうか?
(回答)
 はい、その考え方でで合っております。
 少し補足をしておくと、毎期の利子を5円とした場合、債券価格が100円であれば、金利(利子率)は5%(=5÷100)になり、債券価格が80円であれば、金利は6.25%(=5÷80)になって、金利が高くなったことになります。
(この議論はコンソル債を前提としています。コンソル債に関しては、例えば、問題集の第13講p.7に記載しています)

・ 流動性の罠の状態(LM曲線が水平)でIS曲線を左シフトさせるような緊縮財政政策を行った場合に、流動性の罠ではない通常の状態で緊縮財政政策を実施するときよりも、生産量が大きく減ると思います。流動性の罠の状態で積極財政政策を行う場合は通常時と比較して、クラウディング・アウトが生じない分だけ生産量が大きく増加するということは理解しやすいのですが、流動性の罠の状態で緊縮財政政策を実施した場合に、通常時と比較して大きく生産量が減ってしまうのはどうしてなのでしょうか?
(回答)
 とても良い点を突いたご質問だと思います。
 ご指摘のように、LM曲線が右上がりの通常時(ケース①)には緊縮的財政政策をしてもそこまで国民所得Yが減らず、流動性の罠(ケース②)の場合には緊縮的財政政策によって国民所得Yが大きく減ることになります。
 この理由は、ケース①には利子率rが下がることによって、投資Iが増え、国民所得Yが増加するという効果が含まれているからなのです。(景気が急激に悪くなることを自動的に防ぐようなビルトインスタビライザーに似た作用があるということです)
 それに対して、ケース②では利子率rが下がることがないので、ケース①のように国民所得Yを増加させる要因が全くないため、大きくYが減少したと考えられるのです。

・ 金融緩和政策でマネーストックが増えると言うプロセスが分かりません。2013年辺りからの緩和政策で貨幣を増やしましたが、マネーストックは増えてませんよね?400兆円どこいった?って感じです。金融機関の日銀当座預金が増えただけですが、マネーストックには影響無いですよね?
(回答)
 ご指摘の通りでして、現状は金融緩和政策を実施しても、マネーストック(M)は増えにくい状態です。
 金融緩和政策は、ハイパワードマネー(H)を増やし、その貨幣乗数(m)倍だけマネーストックが増えると考えます。式で書くと次の通りです。
  ΔM=m・ΔH (Δ:変化分を表す)
 しかし、2013年の量的・質的金融緩和以降、貨幣乗数mが低下しているため、Hを増やしてもMが増えにくくなっているのです。
 貨幣乗数mが低下している原因としては、ご指摘の通り、金融緩和によって増えた資金を民間銀行がそのまま、日銀当座預金に入れたままにしてしまうことが挙げられます(日銀当座預金の残高はMには含まれません)。コロナ禍においても、日銀による新型コロナウイルス感染症対応金融支援特別オペによって、さらに日銀当座預金が増えていますね。もう一点としては、低金利であるので家計や企業が民間銀行にお金を預けにくくなることで、信用創造が働きにくくなっていることが挙げられます。(一点目が支払準備率の上昇、二点目が現金預金比率の上昇に相当しています)
 授業で扱っていない用語を多く出してしまって申し訳ありませんが、適宜ご自身でお調べいただきながらご理解いただければ幸いです。