はじめよう経済学

続編の「はじめよう経済学+(Plus)」はこちら
経済学用語集はこちら

授業一覧

 「はじめよう経済学」は全16回の授業からなります。ミクロ経済学とマクロ経済学の基本をわかりやすく学ぶことができます。初めての方は「第1講 市場」からご覧ください。

ガイダンス29分18秒
第0講経済数学入門1時間58分
第1講市場59分48秒
第2講価格弾力性52分30秒
第3講予算線と無差別曲線52分47秒
第4講限界効用と限界代替率59分27秒
第5講効用最大化41分08秒
第6講費用 50分53秒
第7講利潤最大化 55分09秒
第8講GDP 51分51秒
第9講三面等価の原則 39分36秒
第10講45度線分析(1) 38分45秒
第11講45度線分析(2) 38分51秒
第12講IS-LM分析(1) 31分01秒
第13講貨幣と債券 53分57秒
第14講IS-LM分析(2) 34分35秒
第15講ゲーム理論入門 52分00秒

・ 授業資料の一括ダウンロード

授業スライドノートなしノートあり
小テスト問題解答
問題集問題解答

ガイダンス

 「はじめよう経済学」を使って、経済学を効率良く学ぶ方法を説明しています。

・ ガイダンス動画を見る(計29分18秒)

ガイダンス(前半)18分57秒
ガイダンス(後半)10分21秒

・ ガイダンス資料のダウンロード

スライドノートなしノートあり

・ iPad活用術(計7分03秒)

 iPad・Apple Pencil・GoodNotes(アプリ)を使って、「はじめよう経済学」を効率良く学習する方法を説明しています。

※ GoodNotes 5を使って説明しています。

 

・ みんなの質問

クリックして表示(質問13件あり)
・ 数学が苦手なのですが、大学入学までに何講までやっておくといいでしょうか?
(回答)
 数学の力を補強したいのであれば第0講を見終えた上で、問題集第0講を丁寧に解ききることが最も効率の良い勉強法かと思います。
 第1講以降は経済学の内容に入っていくので、数学の力がつくというより、経済学の力がつくことになります。
 そのため数学の力を効率的に伸ばしたいのであれば、問題集第0講を解くことがベストだと思っています。
 第0講が終わって余力があれば、問題集を活用しながら第1講以降に進んでいくと経済学部での数学で困ることはかなり少なくなるのではないでしょうか。

・ 大学入学までに何講までやっておくと、大学の授業についていけるでしょうか?
(回答)
 数学に関しては上に書いた通りです。
 経済学部生が授業でつまづく理由は、「数学の理解が追い付かないから、経済学が分からない」となっていることが多いと思っています。(逆に、経済学で使う数学が完璧であるのに、経済学の授業を聞いてついていけなくなるケースは少ないように思います)
 そのため、まずは第0講の動画授業と第0講の問題集を解くことがやはり一番最初だと思っています。
 また、大学に入学したときに、前期にミクロ経済学の授業があり、後期にマクロ経済学の授業があるというケースも多くあるかと思います。(大学によって異なります)
 例えば、1年生の前期にミクロ経済学の授業がある場合は、第0講~第7講を先に見ておくと良いかと思います。そして、1年生の後期にマクロ経済学の授業がある場合は、夏休み中に第8講~第14講を見ておくと良いと思います。
 第15講はゲーム理論(ミクロ経済学の分野)の内容ですが、これはミクロ経済学の授業の中で扱う大学と扱わない大学があると思いますので、シラバス(授業予定表)を見てゲーム理論の内容が入っていれば、その授業当日が始まる前までに第15講を見ておくと良いでしょう。

・ 公務員受験生です。ミクロ経済学とマクロ経済学のどちらから勉強した方がいいですか?
(回答)
 公務員受験生の多くの方が気になるご質問かと思います。
 「マクロ経済学の方が数学のレベルが低いので、マクロ経済学の方が勉強しやすい」と言う公務員受験生に多く出会いました。そのため、数学があまり好きではない場合は、マクロ経済学から勉強することをおすすめします。数学がそれなりに得意だという場合は、ミクロ経済学から勉強することをおすすめします。
 ちなみに、このアドバイスは公務員受験の専門学校の多くの先生がするアドバイスだと思いますし、私もそうアドバイスをすることが多いです。
 ただ、「はじめよう経済学」の動画と関連してお話するならば、まず最初に、第0講「経済数学入門」の問題集を解き終えることをおすすめします。第0講の問題集は67ページ(問題を解くページは40ページ分)ありますが、公務員試験のミクロ経済学とマクロ経済学で出てくる数学の知識は、この40ページでほぼすべて網羅できています。これを解き終えることで数学の苦手意識が軽減されるかと思います。数学の苦手意識が軽減されると、ミクロ経済学の方が勉強しやすいことに気が付くと思います。ちなみに、マクロ経済学は数学のレベルは低くて問題は解きやすいのですが、理屈自体が難しいのです。要は、理屈は分からないけど、問題は解けてしまうというところがマクロ経済学(の公務員受験生)の特徴といったところでしょうか。
 また、経済学という学問が、ミクロ経済学→マクロ経済学の順に作られたことから、ミクロ経済学から勉強することが正攻法です。そういった経済学の歴史的なこともあるので、ミクロ経済学ではマクロ経済学の知識はほとんど出てきませんが、マクロ経済学ではミクロ経済学の知識が多少出てきます。
 私からのアドバイスをまとめると、数学があまり好きではない場合は、マクロ経済学から勉強することをおすすめします。数学がそれなりに得意だという場合は、ミクロ経済学から勉強することをおすすめします。ただし、数学の苦手意識が軽減されるとミクロ経済学もマクロ経済学もグッと勉強しやすくなるので、第0講の問題集を解き終えた後に、ミクロ経済学から勉強されることをおすすめします。

・ はじめよう経済学(本編)を完璧にしたら公務員試験での専門試験のミクロ経済学・マクロ経済学は何割とれるでしょうか?
(回答)
 ガイダンスの動画でも触れさせていただいた通り、公務員試験範囲(専門科目としてのミクロ経済学・マクロ経済学)の30%程しか網羅できていませんので、やはり最大で3割程の正答率になるかと思います。
 また、受験というのはその試験での問題の形にも慣れる必要がありますので、はじめよう経済学の動画を見ただけだと3割を切ってしまうのではないかなと思います。
 この授業ホームページ上で公開している問題集「はじめよう経済学」をすべて解き終えることで、3〜4割程度の正答率にはなるかなとは思います。(問題集では、動画で扱っていない内容も一部含んでいるためです)
 はじめよう経済学の動画(本編;全16回)は、経済学をスムーズに学び始められるようにするために作成したものですので、この動画を終えてから、本格的な公務員試験の勉強に入られることをオススメ致します。 きっと効率良く公務員試験の勉強ができるかと思います。
(続編であるはじめよう経済学+(Plus)を合わせれば、公務員試験範囲の50%程の内容は網羅できていることになりますが、やはり試験対策としては、公務員試験対策用の問題集や過去問をたくさん解いて問題を解く経験を積むことが大切です)

・ 中小企業診断士の経済学試験(経済学・経済政策)は先生の動画でどの程度対応できるものかお教えいただけないでしょうか?
(回答)
 はじめよう経済学全15講(経済数学入門を含めると全16講)と続編のはじめよう経済学+(Plus)全10講の両方を視聴して、試験範囲のおよそ50%をカバーしていることになるかと思います。はじめよう経済学全15講だけですと、30%ほどかと思います。
 ただ、はじめよう経済学全15講を視聴されるだけでも経済学の勉強の仕方が分かりますので、ご自身で試験対策用の問題集を勉強される際の勉強がはかどりやすくなるかと思います。

・ ERE(経済学検定試験)でスコアB以上を取りたいのですが、本編の15講分をしっかり勉強すれば対応できますか?
(回答)
 はじめよう経済学の全15講(経済数学入門を入れると全16講)は、経済学の勉強を始めるコツを掴んでいただくものですので、全15講では触れられていない範囲が多いのです。はじめよう経済学+(Plus)の10講も合わせると、Bランク以上には到達できる範囲をカバーしているかと思います。
 EREのような検定試験は問題に慣れる必要がありますので、ご自身で過去問演習をしっかりされることをおすすめします。

・ 難関国立大学の経済学部への編入を目指しています。この動画の問題集を終えた後、やるべき参考書はありますか?
(回答)
 編入試験であれ、公務員試験であれ、中小企業診断士試験であれ、大学院試験であれ、どんな試験であれ、まずおすすめできるのは、
石川秀樹(2019)『試験攻略入門塾 速習! ミクロ経済学 2nd edition』中央経済社
石川秀樹(2019)『試験攻略入門塾 速習! マクロ経済学 2nd edition』中央経済社
です。
 これらの本の代用品としては、
茂木喜久雄(2021)『試験対応 新・らくらくミクロ経済学入門』講談社
茂木喜久雄(2021)『試験対応 新・らくらくマクロ経済学入門』講談社
が挙げられます。どちらの本が良いかご自身との相性ですので、本屋で一読をしてから購入をしてみてください。(ちなみに、これら4冊の本はあくまで試験対策本ですので、編入後は専門書で経済学を勉強してください)
 あとは、大学の過去問を見てどのあたりを集中的に学習すればよいのかをご自身で判断してください。大学によって試験問題の傾向が異なりますので、過去問研究が大事かと思います。

・ iPadを持っていない場合、ノートに板書を書き写して学習することも効果的ですか?
(回答)
 元々、この授業は大学ですべて黒板に板書して学生はノートに書き写すというスタイルでした。学生にとっては手間だったと思いますが、ノートを取りながら勉強することは初学者にとって最も頭に入りやすいと思いますよ。

・ 使用しているモニターの品番を教えていただきたいです。
(回答)
 東芝の42Z8(2014年製)です。モニターというか普通のテレビをモニターとして使っています。42型のテレビですが、こういった授業の動画ではサイズ感がちょうどいいかもしれないですね。

・ 今後、この問題集などをテキスト化させて販売することはないでしょうか?
(回答)
 現時点ではテキストにして販売することは考えていません。

・ 先生は経済学のどのような点に面白さを感じましたか?
(回答)
 私がまず最初に感じた経済学のおもしろさは、数学を使って、私たちの普段の行動や企業の活動が説明されていくことでした。
 これまで数式は無味乾燥なものという印象でしたが、経済学で使う数式には、現実と結びつけながら解釈できることがたくさんあり、数式が生き生きとしているように感じました。
 次に、経済学がよく理解できるようになったあとは、経済ニュースが理解できるようになりおもしろいと感じるようになりました。
 「日本のGDPが増加した」「日本銀行が金融緩和を発表した」「アメリカの金利が上昇した」といった普段耳にするニュースが、経済学を学ぶことでより色鮮やかに理解することができるようになったと思っています。

・ 経済学が試験科目に含まれる受験勉強をしているのですが、動画そのものについての質問でなくても関連した内容であれば質問してもよろしいでしょうか?
(回答)
 多くの方から動画授業から少し離れる内容のご質問をいただくことがあるのですが、ケースバイケースにはなりますがお断りすることが多いです。
 お引き受けしている判断基準は、
①動画授業と内容的な関連が強い
②コメント欄を読んだ他の方の学びに繋がる
③受験勉強の過去問などの問題の解説ではない
④既出の質問ではない
この4点になります。
 受験勉強に対する質問は専門学校等で対応していただくのが本来かと思いますので、そこはどうかご理解ください。

・ なぜ動画に中国語の字幕が付いているのか気になります。
(回答)
 かつて、私が経済学を教えた学生に中国人留学生が多かったため、彼ら彼女ら(私の自慢のゼミ生です)に協力していただいて、はじめよう経済学の授業動画本編にはすべて中国語字幕をつけることができました。ちなみに、私自身は中国語はできません(^^;
 日本に留学している中国人留学生で、経済学を学んでいる学生は多くいると聞いています。そういった学生にも役立てばと思い、中国語字幕をつけさせていただきました。

第0講 経済数学入門

 数学は「ちょっと苦手…」という方向けの授業です。経済学の基本を勉強するために、最低限必要な数学の知識をまとめました。

・ 動画授業を見る(計1時間58分)

1.分数・逆数10分00秒
2.両辺に~・変化率10分36秒
3.指数・図形10分33秒
4.グラフ・連立方程式22分55秒
5.微分・偏微分41分12秒
6.関数・数列22分50秒

・ 授業資料のダウンロード

授業スライドノートなしノートあり
小テスト問題解答
問題集問題解答

・ みんなの質問

クリックして表示(質問14件あり)
・ 高校の数学では半分ぐらい赤点で、数学めちゃめちゃきらいなんですけど経済学部に行ってもいいでしょうか?
(回答)
 大学にも依るとは思いますが、この第0講の動画が経済学部4年分の数学のレベルに相当すると考えてもらってもそこまで語弊がないように思っています。
 この第0講の6つの動画を見られて、まったく理解できなければ経済学部に入ることはおすすめできません。しかし、理解できる兆しがあれば経済学部に入ってもついていけると思います。
 経済学で使う数学は、中学や高校で使う数学のごく一部の範囲しか使いませんし、共通テストなど大学受験で用いる難解な数学の知識もあまり出てきません。
 経済学で使う数学に限って効率良く勉強すればいい話だと、私は思っています。

・ 経済学の微積のレベルって数IIのレベルで大丈夫なのですか?それとも、数IIIや大学レベルなのですか?
(回答)
 結論としては、「どこまで経済学を勉強したいかに依る」ということになります。
 公務員試験などの試験で経済学を活用されたい場合や、大学で簡単な経済学を学ぶ場合は、数IIのレベルまでで構いません。(ちなみに、微「積」、つまり、積分はあまり登場しませんよ)
 しかし、大学で難易度の高い経済学を学ぶ場合は、数IIIや大学数学が必要になってきます。(その場合でも、数IIIや大学数学を1から学ぶのではなく、経済学で出てきた数学の内容について集中的に学べば良いでしょう)

・ 『経済学で出る数学 高校数学からきちんと攻める』という本に取り組もうとしたんですが、数学の知識が無さすぎて一章から全くできませんでした。この第0講の動画をマスターすれば経済学で使う数学力は十分に身につくでしょうか?そのほか経済で使う数学力を養うために取り組んだ方がよい参考書などを教えていただきたいです。
(回答)
 経済学部に所属する平均的な大学生であれば、この第0講の動画で扱う内容でほとんど事足りると思っています。あとは経済学を学ぶ中で計算問題を解き続けていれば、特段に数学の訓練をしなくても数学の力がついていくからです。
 ただ、学部上級や大学院レベルの経済学にチャレンジしたり、統計学や計量経済学に手を出されるのであればこの第0講だけでは足りません。その場合は、『経済学で出る数学 高校数学からきちんと攻める』(定評のある本です)を読まれればいいと思いますが、すべて解く必要はなくて、自身にとって必要だと思われる箇所を解けば良いでしょう。
 第0講に関しては、動画を見た上でこのホームページからダウンロードできる問題集の第0講も解かれることをおすすめします。
 数学力を養うためのおすすめの参考書ですが、申し訳ありませんが思い当たる本がないのです。(もしそのような参考書があれば、自分で問題集を作ろうとは思いませんでした。『経済学で出る数学 高校数学からきちんと攻める』も数学が苦手な人にとっては敷居が高いと思います)
 もちろん、ある程度数学が出来る人向けにはたくさん良い本があります。ただ、経済学を学び始めたばかりで数学に苦手意識を持つ方へおすすめできる、ぴったりの本はないと感じているのです。

・ ここで学ぶ数学に関して、経済学で使用している具体例を挙げていただけないでしょうか?
(回答)
 授業時間の関係で経済学で登場する具体例は省かせていただきましたが、第1講~第15講で登場する数学のすべてを第0講で説明しています。
 また、手短に第0講と経済学への適用例の関係を知りたい場合は、問題集第0講のp.63からの総合問題をご覧ください。

・ 放物線は、二次関数の内容ですか?二次関数の知識は忘れてしまいました。
(回答)
 はい。放物線は二次関数の内容ということで合っています。
 二次関数の知識といっても、
  y=ax^2+bx+c
 この式のaがプラスだと下に膨らんだ形の放物線で、bがマイナスだと上に膨らんだ形の放物線になる、ということくらいを抑えておけば大丈夫ですよ!(x^2は「xの2乗」を表しています)

・ 授業スライド56にある「微分の活用例②」が難しいと思いました。やはり、理解出来なければ、問題は解けないですか?
(回答)
 何の問題を解くかにも依ります。
 例えば、公務員試験だと解けなければいけませんし、中小企業診断士試験だと解けなくても大丈夫です。大学の授業のでの試験だと先生によって問題のレベルは違うので、必要かどうかはその先生次第です。
 ひとまず飛ばしておいて、また登場した際にチャレンジすればいいやというくらいで、気楽に考えていただければいいように思います。

・ dy/dxの”d”は何でしょうか?
(回答)
 「微分」の英語が、derivative、もしくは、differentiationですので、その頭文字から”d”を用いることになっています。この内容は、問題集「はじめよう経済学」第0講<補足15>でも紹介しています。

・ 「微分」は式の右辺に文字(xなど)が1つしかないときに行うもので、2文字以上出てくるときに行うのが「偏微分」ということですか?
(回答)
 そのように考えることがわかりやすいかと思います。
 ただし、気を付けていただきたいことがあって、 例えば、
   y = a*x + b *:かけるを意味します。
 この式は、xで「微分」します。それは、xを変数、a, bを定数と考えているからです。「文字」と言ってしまうと、x, a, bも文字に含まれてしまいますので、覚え方を次のように変えた方がいいと思います。
「微分は式の右辺に変数(xなど)が1つしかないときに行うもので、偏微分は変数が2つ以上出てくるときに行うもの」

・ 経済学で何を求めるときに微分や偏微分を使いますか?
(回答)
 ミクロ経済学、マクロ経済学に関わらず、限界○○という用語にはすべて微分や偏微分を使います。
 問題集第4講の<補足5>にも書かせていただきましたが、基本的な経済学で用いる限界○○を書き出してみると次の通りです。
[主にミクロ経済学で登場する限界○○]
限界効用、限界代替率、限界費用、限界収入、限界生産力、技術的限界代替率、限界利潤、限界便益、限界変形率、限界外部費用、私的限界費用、社会的限界費用、限界削減費用
[主にマクロ経済学で登場する限界○○]
限界消費性向、限界貯蓄性向、限界租税性向(限界税率)、限界輸入性向、限界効率、限界不効用、限界の ρ(ロー)

・ 経済学でベクトルも使うのでしょうか?
(回答)
 経済学ではベクトルも登場します。現時点では私の動画ではベクトルを使った説明はしていませんが、問題集 第0講のp.68<補足22>で少し紹介をしています。ところで、ベクトルの知識はこの補足の内容を理解すればひとまず十分だと思っています。
 大学の経済学で最初の方に登場するベクトルの知識とは、
「りんごの消費量xが2個、みかんの消費量yが3個であった」
という状況を表現するのに、
「消費ベクトルは(x, y)=(2, 3)である」
と書いているだけなのです。「ベクトル」といういかにも数学らしい言葉を使っていますが、この表記方法に慣れてしまえばいいだけで、高校数学で学んだような複雑なベクトルの計算は出てこないのです。

・ 経済学では、無限等比級数の初項は常に正の値ですか?
(回答)
 経済学で無限等比級数の初項が負の値をとることはありますし、それは珍しいことではありません。例えば、第11講で登場する増税の乗数効果は、初項が負となる場合に相当します。増税によって国民所得(GDP)が減少するのですが、どれだけ減少するのかを計算する際に無限等比級数を用います。そのときの初項はマイナスになっているのです。

・ 授業スライド76において、①×rでは式が「…」で永遠に続いていますが、末項にもrが掛けられますよね。①-①×rを計算する際に、なぜこの部分を無視できるのでしょうか?
(回答)
 実は、授業で紹介している証明方法は簡易なものになります。(よく考えると、授業で紹介している証明方法では-1<r<1の条件を使っていないように思えますね)
 ご指摘の通り末項に関しても考慮する必要があるのですが、その方法に関しては、問題集「はじめよう経済学」第0講の<補足20>をご覧ください。そこで正確な証明方法を記載しています。
 結論を簡単に書いておくと、末項は極限をとることで-1<r<1を条件としてゼロに収束してくれるのです。

・ この授業の経済数学を習得すると、どういったことに役立ちますか?
(回答)
 この授業で扱う経済数学を習得した場合、
① 経済学部の大学生であれば、大学4年間は数学で困ることがぐっと少なくなるかと思います。ただし、経済学部で学ぶ難易度の高い科目や、統計学・計量経済学を勉強するには、もう少しレベルの高い数学が必要です。
② 資格試験にチャレンジする方であれば、経済学が必要な試験であればどのような試験でも数学で困ることはほとんどないかと思います。国家公務員総合職試験の経済学であっても、この授業の数学のレベルで多くの問題に対応することができます。
③ ERE(経済学検定試験)ミクロ・マクロにチャレンジする方であれば、どのレベルでも(最も上位のSランクであっても)目指せかと思います。Sランクをとるには経済学自体のレベルを高める必要があり、用いる数学自体はこの授業のレベルで大半がカバーされています。ただし、少し難しい経済学でよく出てくる「合成関数の微分」をこの授業では扱っていませんので、そこはご自身で勉強される必要があるかと思います。
 また、数学は反復練習がとても大切です。第0講の問題集を解き切ることで、この授業で扱う経済数学を習得したと言えるようになるでしょう。

・ 中小企業診断士を目指しています。どのレベルまで数学を復習すればよいでしょうか?
(回答)
 第0講「経済数学入門」の数学レベルがちょうど適切な水準になっていますので、この動画を繰り返し見られることをおすすめ致します。
 ところで、数学は「慣れ」が必要ですので、受験まで時間がある方はご自身の必要に応じて問題集「はじめよう経済学」の第0講を解かれると良いでしょう。中小企業診断士試験の「経済学・経済政策」で計算が要求されることはそれほど多くないのですが、参考書を読み進める際に数学の知識があると学ぶ上で障害が少なくなります。

第1講 市場

 経済学の最も基本的な内容である「需要曲線」と「供給曲線」について学んでいきましょう。

・ 動画授業を見る(計59分48秒)

1.神の見えざる手20分50秒
2.需要曲線と供給曲線のシフト13分33秒
3.余剰分析4分06秒
4.価格規制と数量規制21分19秒

・ 授業資料のダウンロード

授業スライドノートなしノートあり
小テスト問題解答
問題集問題解答

・ みんなの質問

※ 「みんなの質問」はYouTubeのコメント欄に質問をしていただいたものです。詳しくはこちら

クリックして表示(質問15件あり)
・ ある教科書では需要曲線や供給曲線が直線ではなく曲線で描かれています。どちらが正しいのでしょうか?
(回答)
 需要曲線や供給曲線は本来「曲線」になります。本授業では、余剰分析や計算問題での扱いやすさのために直線で説明しています。

・ 需要曲線と供給曲線が、横軸や縦軸にくっついていたり、くっついていなかったりする違いは何でしょうか?
(回答)
 この授業では、需要曲線や供給曲線は横軸や縦軸にくっつけても離してもどちらでも構いません。板書の都合上でくっつけたり離したりしているだけになります。
 ただ、横軸や縦軸にくっついている場合について解釈を与えることができます。以下の手書きメモをご覧ください。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/03/note20210313.pdf

・ 供給曲線について、価格が安ければ薄利多売でたくさん作るのではないかと思います。そうすると、供給曲線が右上がりにならない気がしてしまいます。
(回答)
 そのような疑問を持たれている人も多いかもしれません。(かつて、まったく同じ質問を受けたことがあります)
 供給曲線が右上がりになることは、供給曲線自体がどのように導出されるかを学ぶ必要があります。私の動画だと、第6講「費用」と第7講「利潤最大化」で説明しています。
 また、次のような説明も正しい内容になります。
「仮に、りんごを作ったとしても安い価格でしか売れないとします。例えば1個10円としましょう。そうすると、りんごを作る人自体が減ってしまいます。そのため、価格10円のときの市場全体におけるりんごの供給量は小さいものになってしまいます。また、仮にりんごを作れば高い価格1個1000円で売れるとします。そうすると、りんごを作って売ろうとする人がどんどん参入することになり、市場全体におけるりんごの供給量は大きいものになります」

・ 政府による数量規制の例はありますか?
(回答)
 例えば、コメの減反政策があります。日本では減反政策は2018年度に廃止になりましたが、コメの生産量を抑えることで日本米の高価格が維持され、農家の収入もある程度確保されてきました。

・ 完全競争市場において、政府による政策を行うと総余剰が小さくなるということは理解できましたが、逆にどのような状況の時に政策を行うと総余剰は大きくなりますか?
(回答)
 価格規制や課税など、政府が規制を行うことで総余剰が大きくなるケースというのは「市場の失敗」が生じているケースが挙げられます。
 例えば、市場の失敗の例として環境問題が生じている場合には、企業に生産量を抑えてもらう必要がありますので、企業の生産量を抑えるような政策を実施すべき、といったことです。
 市場の失敗に関しては、はじめよう経済学+(Plus)の第3講や第4講で解説しています。

・ 需要曲線の切片にあたる価格ではx=0ですが、その部分も消費者余剰に含まれているのでしょうか?
(回答)
 この質問を言い換えると、
「消費者余剰の三角形の左端の辺も消費者余剰に含まれているのか?」
ということになるかと思いますが、結論としては左端(つまり、x=0のとき)も消費者余剰に含まれると考えます。
 その理由を次のリンク先で手書き資料として示しました。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2022/03/note20220307.pdf
 3ページ目の一番左下の図がその結論になっていますが、その要点は「細長い棒グラフがx=0にも重なっていると考えるため、消費者余剰の三角形の左端の辺も消費者余剰に含まれる」ということです。

・ 数量規制に関して、なぜ低い価格ではなく高い価格で決定されるのかが分かりませんでした。消費者は「高い値段で買っても良いけれども、生産者が安く売ってくれるのであれば安く買いたい」と思うのではないかと感じました。これは、「価格を決めるのは消費者ではなく生産者」(消費者と生産者の立場は非対称)という前提があるから、低い価格ではなく高い価格になるということでしょうか?「完全競争市場では、全ての経済主体が価格を所与として行動している」と理解しており、消費者と生産者の立場は対等だと思っていたので、なぜ生産者に有利な価格に決定するのかが理解できませんでした。
(回答)
 ここで考えている数量規制が「生産者側に対する規制」であることがポイントになります。
 これを踏まえて、説明をより正確にしたものを手書きしましたので、以下の文書をご覧ください。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/06/note20210602.pdf
 ご理解いただいているように、消費者と生産者の立場は対等です。この手書きの説明だと、それぞれの立場が対等であることを崩すことなく説明をすることができていることが分かるかと思います。

・ 政府がある商品の価格を低価格P1に規制にしたところについてなのですが、消費者余剰からはみ出た「P1より高い値段を想定していた消費者」はどうして商品を購入できず、消費者余剰からはみ出してしまうのでしょうか?P1より高い値段を想定していたのであれば商品を購入できて、消費者余剰に含まれると考えてしまいます。
(回答)
 非常に良いご質問です。
 実は、この手の価格規制や数量規制の余剰分析には次の2つの「仮定」が隠されています。
「より高い価格で買ってもいいと思う(支払意思額のより高い)家計から順に財を購入する」
「より低い費用で生産できる(限界費用のより低い)企業から順に財を生産する」
 これら2つの仮定があることで、授業でご説明したような結論となるのです。
 つまり、ご指摘の点に関して、P1よりも高い価格を支払ってもいいと思っていて買えなかった人は、自分よりもより高い価格で支払ってもいいと思っていた人達に買われてしまったということになります。
(価格規制や数量規制といった、この手の余剰分析の結果は、想定される総余剰の中で最も大きいものと解釈すれば良いでしょう)

・ 例えば「マスクの生産者に対して生産・販売数量は規制しないが、消費者が購入できるマスクは1人1日1枚までとし、マスクの買いだめは禁止する」などと、政府が消費者に対する購入数量規制のみを実施した場合には、供給曲線は変化せずに需要曲線が屈折して、低い価格で均衡するということもあり得るのでしょうか?直感的には、マスクの価格が常識外れの高値で均衡している状況において、政府が消費者に対して購入数量を制限し、買いだめや転売を禁止して全国民にマスクが行き渡れば、マスクの価格は下がる気がします。
(回答)
 まさにご指摘の通りで正しいです。(書かれている直観も正しいです)
 ここでは、消費者の購入量に対する規制を、仮に「購入量規制」と呼んでおくとします。
 詳細については手書きの資料を作りましたので、次のリンク先をご覧ください。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/06/note20210603.pdf
 購入量規制(x1に規制)のポイントは、どれだけ価格が安くなっても需要量はx1だということです。そのため、販売量規制のときに生じていたような超過需要が生じません。逆に、超過供給が生じることで価格が下がるのです。
 これこそマスクの例で指摘していただいたような話なのです。マスクの購入量を制限することで、超過需要が生じにくくなり価格が上がりにくくなるという感覚ですね。

・ 数量を政府が規制した場合、企業は生産量に適した工場を持っているはずなので制限を設けたことで、制限後の数量では本来必要のなかった設備や維持費がかかり生産コストの向上につながると考えました。そのように考えると、供給曲線は上方シフトすると考えてもいいのでしょうか?
(回答)
 そのように考えることは正しいかと思います。しかし、経済学の基礎理論では数量規制による生産コストの向上までは考えず、数量の規制で供給曲線が上方シフトすることまでは通常考えません。
 第7講「利潤最大化」に関連しますが、供給曲線が上方にシフトするというのは生産コスト(正確には限界費用)が上昇するということです。ご指摘いただいたように、もし仮に、政府が数量を規制したことで、その製品の生産効率が下がり生産コストが上がると考えたのであれば、供給曲線が上方にシフトすると考えてもよいでしょう。ただし、通常はそういった長期的な影響というのは基礎的な経済学の理論では加味しないのです。

・ 労働市場でも、財・サービスと同じ考え方で需要と供給が求まるのでしょうか?
(回答)
 ご指摘のように、労働市場も財・サービスの市場と同じような考え方で労働需要曲線や労働供給曲線が導出されます。
 ある財やサービスに対する需要曲線は効用最大化から得られ、供給曲線は利潤最大化から得られました。それに対して、労働需要曲線は「企業が労働を需要する」ということですので、企業が利潤を最大とするように雇用者数(労働量)を決定します。したがって、労働需要曲線は企業の利潤最大化から導出されます。 また、労働供給曲線は「家計が労働を供給する」ということですので、家計が効用を最大とするように労働時間を決定します。したがって、労働供給曲線は家計の効用最大化から導出されます。
 まとめると次のようになります。
財の需要曲線:家計の効用最大化から導出
財の供給曲線:企業の利潤最大化から導出
労働需要曲線:企業の利潤最大化から導出
労働供給曲線:家計の効用最大化から導出

・ 余剰は面積で計算しているようですが、xに関して一様に積分取ることに意味があるのでしょうか?「需要曲線上の各点に各消費者の量と価格の関係の情報が乗っていてにそれを足し合わせて余剰を求める」という説明のようですが、各点に消費者人数の分布による”重み”は考えなくてよいのでしょうか?
(回答)
 この質問を書き換えると、
「需要曲線上において「同じ価格で買っても良い」と思っている人が複数人いる状況だと、授業で学んだやり方で消費者余剰を求めてもいいのか?」
となるかと思います。
 もし仮に、ある財に関してすべての人が「100円で買っても良い」と思っていたとします。そうすると、需要曲線は100円の高さで水平線になります。これからわかることは、「同じ価格で買っても良い」と思う人たちがいると、その価格水準で需要曲線が部分的に水平になるということです。
 つまり、右下がりの需要曲線があるとして、その需要曲線は、例えば「300円で買っても良い」と思っている人が100人(財100個分とする)いるとして、それ以外の価格帯では全員、買っても良いと思う価格が異なっているとすると、その右下がりの需要曲線は、300円の水準で100単位分の水平部分があり、それ以外の箇所では右下がりになるのです。
 また、ぴったり同じ価格で受容している人がいないと、そういった水平部分は生じないということです。(価格を連続変数(とびとびの値をとる離散変数ではない)と考えると、こう考えることがそう無理な仮定でもありません)
 このことから分かりますが、ある価格帯で多くの人が財を需要していると、その価格帯においては需要曲線の傾きが緩やかとなるのです。
 したがって、需要曲線に水平部分も取り得ることを考慮に入れれば、重みを考えずに積分すればよい、言い換えれば、市場全体の量(需要量)を議論する以上は、需要量の分布はすでに需要曲線に含まれるから面積を考えればよいということになるのです。

・ 問題集第1講のp.19で「政府が低価格に規制したときの消費者余剰」が、価格規制が行われる前と比べて、大きくなっているか小さくなっているか分からないのはなぜでしょうか?
(回答)
 図を描いて説明した方が分かりやすいですので、次のように手書きのメモを書きました。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/01/note20210125.pdf
 図の描き方によっては、規制「後」の方が消費者余剰が大きくなったり(ケース1)、規制「前」の方が消費者余剰が大きくなったり(ケース2)していることがお分かりいただけるのではないでしょうか。

・ 「高価格P2に規制(価格規制)」と「少量x1に規制(数量規制)」について、これらは消費者余剰よりも生産者余剰の方が大きくなるので、生産者の方が消費者よりも得する、ということでしょうか?
(回答)
 感覚としてはそういったイメージではあるのですが、正確には間違っています。
 需要曲線や供給曲線の形状によっては、高価格P2に規制(や少量x1に規制)であっても、消費者余剰>生産者余剰になることがあります。(例えば、縦軸切片がものすごく高いところにあり、傾きは極めて急な需要曲線を考えて余剰分析をすると、消費者余剰>生産者余剰になることもあることがわかります)
 では「生産者の方が消費者よりも得する」といったようなことを考えるためにはどうすればいいのかというと、政府の規制がない場合における消費者余剰CS0と生産者余剰PS0と、高価格P2に規制した場合における消費者余剰CS1と生産者余剰PS1を比較すればよいのです。
 このとき、消費者余剰に関してはCS0>CS1になる、つまり、高価格P2に規制すると、消費者は政府の規制がない場合よりも損をするとなります。(このことはグラフを描いて確認してみてください)
 それに対して、生産者余剰は、PS0<PS1か、PS0>PS1か、PS0=PS1かは判断できません。つまり、高価格P2に規制したときに、生産者は政府の規制がない場合よりも得をするのか損をするのか分からないのです。(これもグラフを描いて確認してみてください。三角形と台形のどちらが大きいかという話になりますが、一般的にはどちらが大きいとは言えないことに気が付くでしょう)
 この点については、問題集第1講のp.19やp.20に書いていますので参考にしてみてください。

・ ワルラス的調整過程、マーシャル的調整過程とは何でしょうか?
(回答)
 ワルラス的調整過程は価格調整ともいい、要するに「神の見えざる手」のことです。
 つまり、超過需要が生じていれば価格が上がり、超過供給が生じていれば価格が下がるということです。
 そのため、神の見えざる手の別名がワルラス的調整過程になると考えて構いません。
 次に、マーシャル的調整過程についてです。
 これはグラフを描いて説明する必要がありましたので、以下に説明を手書きでアップロードしました。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/04/note20210411.pdf
 マーシャル的調整過程は数量調整ともいいます。手書きの資料を見ていただければ、均衡点ではない状況では、企業が生産量(つまり、数量)を調整していくことが分かるかと思います。

第2講 価格弾力性

 需要曲線と関係のある「需要の価格弾力性」について学んでいきます。

・ 授業動画を見る(計52分30秒)

1.微分の計算方法10分47秒
2.微分の意味16分19秒
3.需要の価格弾力性①17分48秒
4.需要の価格弾力性②7分36秒

・ 授業資料のダウンロード

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問題集問題解答

・ みんなの質問

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・ 奢侈品と必需品の具体的な数値を使った見分け方はありますか?
(回答)
 授業では、
  必需品:需要の価格弾力性が小さい
  奢侈品:需要の価格弾力性が大きい
と説明しましたが、「小さい」や「大きい」とはどの程度なのかと気になるかと思います。
 実は、必需品や奢侈品は「需要の所得弾力性」で定義されます。また別の動画で「需要の所得弾力性」を説明することになるかと思いますが、需要の所得弾力性とは、所得が1%増加したときに需要量が何%増加するかというものになります。
 式で書くと、
  ε_I=(Δx/x)/(ΔI/I)≒dx/dI・I/x
になります。この需要の所得弾力性ε_Iを使うと、
  必需品:ε_I<1
  奢侈品:ε_I>1
となります。(ε_I=1である場合には、特に名前がありません)
 突然、定義が変わったと驚かれるかもしれませんが、応用論点としてスルツキー分解という式から、需要の価格弾力性ε_Dと需要の所得弾力性ε_Iの間の関係式を示すことができ、この関係式からε_Iが大きければε_Dが大きくなることが分かります。
 まとめると、必需品や奢侈品は需要の所得弾力性ε_Iの大きさで定義されるが、需要の所得弾力性ε_Iが(1よりも)小さいと、需要の価格弾力性ε_Dも小さい傾向があるので、需要の価格弾力性ε_Dが「小さい」財を必需品だと(曖昧だけれど初学者にとって感覚的に分かりやすいように)説明するのです。
 よりレベルの高い経済学の教科書になると、このような曖昧な説明を避けるために、必需品や奢侈品は需要の所得弾力性ε_Iのみで説明することが通常になります。

・ 例題2の需要曲線上の「1点」における需要の価格弾力性に関して、需要曲線上の「1点」であれば、価格に変動は起こっていないので影響度合いなど数値化が出来ないのではないでしょうか?
(回答)
 ある一点における需要の価格弾力性を理解するポイントは、「需要曲線が分かっている」ということです。
 需要曲線の形が分かっているので、価格が1%上昇したたときに、需要が何%減少するかが予測できるのです。
 もちろん、需要曲線が分かっておらず、本当に一点の情報しかない場合は、ご指摘のように需要の価格弾力性を計算することはできません。
 「一点の情報」と「需要曲線の情報」の2つが分かっているからこそ、需要の価格弾力性が計算できるのです。

・ 動画の中で、点A(2,5)における価格弾力性を求めていましたが、実際に問題を解く場合、需要関数だけ与えられている状態で、1点の場所が決められていない場合にどこの1点の価格弾力性を求めるのかは、自分で決めていいのでしょうか?
(回答)
 それは需要曲線の形によります。
 例えば、需要曲線が
  x=a/P a:正の定数
というような式の形の場合、需要の価格弾力性が、曲線上のどの位置であっても需要の価格弾力性が1になります。つまり、この場合は、1点の場所を指定しなくても、曲線上のどこであっても需要の価格弾力性が1ですので、1点の場所を指定する必要がないのです。(これに関しては、問題集の第2講<補足6>に詳しく書いています)
 それに対して、動画で扱ったような需要曲線が直線の場合は、1点の場所によって需要の価格弾力性の値が変わってしまいます。そのため、必ず1点の場所を指定しておく必要があります。
 結論として、1点の場所を自分で勝手に決めても需要の価格弾力性の値が変わらないのであれば、ご自身で場所を決めてもいいのですが、値が変わる場合は問題文に1点の場所の指定があるはずなのです。

・ 傾きが-2と-3では-3の方が小さい値になりますので、需要曲線の傾きが「小さい」ほど需要の価格弾力性が小さい、という理解で合っていますか?
(回答)
 結論からお伝えさせていただくと、その理解は一見正しそうに思えますが、正確には間違っているのです。
 「傾きが-2と-3では-3の方が小さい値」という考え方はもちろん合っています。ただし、「傾きが小さい」という言葉は、「傾きの絶対値が小さい」と理解することも多いので、気を付けないといけないところではあります。つまり、右下がりの直線で傾きが緩やかであることを、本当は「傾きの絶対値が小さい」と表現すべきなのですが、単に「傾きが小さい」と言ってしまうことがあるということです。(私は授業する際、紛らわしくないように、グラフが「急だ」とか「緩やかだ」と言うように気を付けています)
 次に、「需要曲線の傾きが「小さい」ほど需要の価格弾力性が小さい」という理解が正しくないのです。
 この授業の講義スライド17をみると、「傾きが「小さい」(急である)ほど、需要の価格弾力性が小さい」という理解で正しそうに思えてしまうのですが、正確には正しくありません。
 ところで、右下がり直線である需要曲線は、直線上の場所によって需要の価格弾力性の値が異なります(詳しくは、問題集の第2講<補足4>をご覧ください)。このように、直線上の場所によって需要の価格弾力性の値が異なるので、「傾きが急な需要曲線は需要の価格弾力性が小さい」や「傾きが緩やかな需要曲線は需要の価格弾力性が大きい」とは一概には言えないのです。
 少し応用の話になりますが、需要曲線の傾きは数学的に表記すると、dP/dxになります。それに対して、需要の価格弾力性の式は、-(dx/dP)*(P/x)になります。つまり、直線の需要曲線の傾きの値dP/dxだけでは、需要の価格弾力性の値-(dx/dP)*(P/x)は確定しないのです。このように、直線の需要曲線の傾きだけから、需要の価格弾力性が大きいや小さいを判断することはできません。
 まとめると、
「需要曲線(右下がりの直線)の傾きが小さい(グラフが急である)ほど、需要の価格弾力性が小さいとは一概には言えない」
となります。
(講義スライド17は誤解を与えやすいものではあるのですが、初学者にとっては需要の価格弾力性のイメージがつきやすいため説明に用いているのです)

・ 需要曲線が直線の場合、xの値次第で需要の価格弾力性の値が変わるというのが(計算したらそうなるのは分かっても)感覚的には理解できないです。
(回答)
 需要の価格弾力性の定義は、価格1「%」の上昇で需要が何「%」減少するかということです。例えば、価格が100円から101円への値上がりは、1%の上昇に過ぎませんが、価格が1円から2円への値上がりは、(先と同じ1円の上昇であるにも関わらず)100%の上昇になります。
 このことから考えると、価格が元々高い状態(直線の需要曲線上の左上側のある一点)からの1%上昇は、価格が大きく上がるので、需要が大きく落ち込み(需要の価格弾力性が大きくなる)、価格が元々低い状態(直線の需要曲線上の右下側のある一点)からの1%の上昇は、価格があまり上がらないので、需要があまり下がらない(需要の価格弾力性が小さくなる)ということが、直観的な理解になるのではないでしょうか。

・ Δx/ΔPとdx/dPは完全に等しいという訳ではないですよね?なぜ置き換えてもいいのでしょうか?
(回答)
 まさにその通りで、Δx/ΔPとdx/dPの値は異なります。(数学的には、ΔPが限りなくゼロに近い微小の値だとすれば、Δx/ΔPとdx/dPは完全に等しくなります。この辺りの話は微分の定義が関わってきます)
 そのため、より正確に考えると、
スライド15では、Δxが限りなくゼロに近い微小の値であれば、「≒」ではなくて「=」になる、
スライド19では、ΔPが限りなくゼロに近い微小の値であれば、「≒」ではなくて「=」になる
となります。この授業では、ΔxやΔPがそういった微小の値ではない場合を考えて、「≒」としているのです。
 ただ、需要の価格弾力性の問題を解く際には、Δx/ΔPとdx/dPの値の違いは問われないのです。なぜなら、例題(1)と(2)を解く際に、式を使い分けていました。例題(1)では、需要の価格弾力性の式(その1;変化分バージョン)、 (2)では、需要の価格弾力性の式(その2;微分バージョン) を使っていました。つまり、問題によって使い分けますので、需要の価格弾力性の式の(その1)と(その2)が完全に等しい値を得る式であるかどうかは問題にならないのです。
 もし、Δx/ΔPとdx/dPの値は違うのに「≒」と考えるのは、数学的に気持ちが悪いと考えるのであれば、需要の価格弾力性の式は(その1)と(その2)の2種類あるのだと考えれば良いでしょう。そして、ΔPが限りなくゼロに近い微小の値であったときに、その2種類の式は完全に同じ式になると理解すればいいのです。

・ 需要の変化は購入量で見るとのことですが、購入量を売上に変えるとどうなるのでしょうか? 需要の価格弾力性から「価格が1%上がって、売上が○%下がる」などといえるのか知りたいです。
(回答)
 次のように考えれば、購入量を売上に変えて計算しても構いません。
 例えば、その③の動画の例題(2)を使って、価格が1%上がって、売上が何%上がる(下がる)を求めてみましょう。
 売上はP × x=Pxですので、
  (ΔPx/Px)/(ΔP/P)
を求めることで、価格が1%上がって、売上が何%上がるかが求まります。
 また、
  (ΔPx/Px)/(ΔP/P)≒dPx/dP × P/Px
になりますので、この式に例題(2)の需要関数x=-2P+12とx=2、P=5を代入して計算していきましょう。
  dPx/dP × P/Px
  =dP(-2P+12)/dP × P/P(-2P+12)
  =d(-2P^2+12P)/dP × P/(-2P^2+12P)
  =(-4P+12) × 1/(-2P+12)
  =(-4P+12)/(-2P+12)
  =(-2P+6)/(-P+6)
  =(-2×5+6)/(-5+6)
  =-4/1
  =-4
 したがって、価格が1%上がって、売上が4%「下がる」ことを求めることができたことになります。
 結果の解釈ですが、価格が上がったことで売上も上がってくれそうですが、需要が大きく下がったことで、売上自体は落ちてしまったということになりますね。

・ ある教科書だと公式のdxのところがdDと表記されています。この違いがよくわかりません。どういった意味の違いなのでしょうか?
(回答)
 結論からですが、xを使ってもDを使ってもどちらでも構いません。
 正確に説明すると少し込み入った話になりますが、あえてきちんと説明させていただきます。
 例えば、
  需要曲線の式:x=-P+10
  供給曲線の式:x=P
であったとします。
 ただ、よく考えるとこれらの式はおかしいのです。需要曲線の式にあるxは本来「需要量」であり、供給曲線の式にあるxは本来「供給量」ですので、同じ記号xを使うのは正確には正しくないのです。
 そのため、本当は「Dを需要量、Sを供給量とする」と断った上で、
  需要曲線の式:D=-P+10
  供給曲線の式:S=P
と書かなければいけません。(価格Pは、需要曲線に対しても、供給曲線に対しても、同じ概念である「価格」なので記号を分ける必要はありません)
 このように、Dを需要量、Sを供給量、といったように記号を分けると、需要曲線や供給曲線のグラフの横軸を「数量x」ではなく、「需要量D、供給量S」の2種類にする必要があります。
(横軸に2種類以上の記号が登場するのは、例えば、第6講で限界費用MCと平均費用ACを同じ縦軸に書いていることと同じ考え方です)
 したがって、需要曲線や供給曲線のグラフの横軸を「需要量D、供給量S」の2種類にする立場をとった場合、需要の価格弾力性が、
  -dD/dP・P/D
といったように表されるのです。
 では、数量xを使っていいのか?ということですが、xに需要量と供給量の両方の意味を持たせて数量xと言ってしまえば、大きな間違いとは言い難いです。しかし、本来、意味の異なる需要量と供給量を同じ記号xを使うのは、(より勉強が進んだ人にとっては)避けたいところなのです。
(また、均衡点においてはD=Sになるので、最初から記号の設定として(D=S=)xとしてしまっていた方が簡便だという考え方もあります)
 ということで、本当は、数量xの代わりに需要量Dや供給量Sを使いたいところではあるけれど、初学者にとっては記号が多くない方がわかりやすいのでxのみを使うことも多いということになります。
 話が長くなりましたが、要は、(あまり細かいことを気にしなければ)「xを使ってもDを使ってもどちらでも構わない」ということです。
 ちなみに、以上の点に関しては、授業ホームページ(動画説明欄にURLがあります)からダウンロードできる問題集「はじめよう経済学」の第2講<補足1>や<補足7>が関連事項になります。

第3講 予算線と無差別曲線

 効用最大化を学ぶ準備として、「予算線」と「無差別曲線」を学んでいきます。

・ 授業動画を見る(計52分47秒)

1.効用最大化の概要17分20秒
2.予算線19分28秒
3.無差別曲線15分59秒

・ 授業資料のダウンロード

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・ みんなの質問

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・ 傾きとは「yの増加量/xの増加量」であるのに、予算線の傾きがPx/Pyというように逆になっているのかが疑問です。
(回答)
 大変良い質問だと思います。経済学を学び始めた多くの方が直面する疑問で、勉強が進んでいるうちにとりあえず価格比はPx/Pyというように覚えてしまい、疑問を解消しないまま無視してしまうところかと思います。
 ご質問を整理すると、
 予算線の傾きは、
  Δy/Δx
であるはずなのに、その傾きが
  -Px/Py
で表させれ、何となく、xとyの位置が逆転しているように見えてしまい、違和感があるということですね。
 このようになる理由については、手書き資料を作成してみましたので、以下のURLをご覧ください。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/09/note20210910_02.pdf

・ 2つの財がある場合、1つの財が価格変動したらどうなるかの話ばかりですが、2つとも価格変動する場合も実際はあるかと思います。その場合、どのような図が出来上がるのでしょうか?
(回答)
 2つの財の価格が変化することを考えてもいいのですが、「価格が2つとも変化する」ことは「価格が1つだけ変化する」ことに対して別の論点が入ってしまうため、時間の都合上紹介できなかったのです。
 結論は「価格が2つとも変化する」ことは「価格が1つ変化する+所得が変化する」と見分けがつかなくなってしまいます。
 どういうことかというと、数値例として、第3講の例題と同じ
  Px=10, Py=20, I=120
とすると、予算線は、
  10x+20y=120 … ①
となります。
 ここで、2つの財の価格が同時に変化することを考えてみます。(例えば両財とも価格を上昇させました)
  Px=20, Py=30, I=120
になったとしましょう。そうすると予算線は、
  20x+30y=120 … ②
になります。この式の両辺を2で割ってみると、
  10x+15y=60 … ③
になります。(もちろん、②式と③式は同じ式ですので、グラフに描けばどちらも同じ直線です)
 ①式と②式を比較すると、2つの財の価格が変化したことになっていますが、①式と③式を比較すると、X財の価格は変化せず、Y財の価格と所得Iが変化したことになっています。
 このように、「価格が2つとも変化する」ことと「価格が1つ変化する+所得が変化する」ことは見分けがつかないといったことが起こるのです。
 つまり、授業で学んだような「価格が1つだけ変化する」現象と「所得が変化する」現象の2つを理解すれば、それは、「価格が2つとも変化する」現象も学んだことになっているのです。
 この点に関しては、問題集の第3講<補足3>と<補足4>が関連事項になっていますので、ぜひ一度ご覧いただければと思います。

・ 効用関数をU=xyで表すということでしたが、なぜ掛ける(積)のでしょうか?例えば、りんごから得られる効用が6、みかんからの効用が3であれば、U=3+6=9と(和)で考える方が自然な気もします。U=x+yだと曲線にならないから使われないのでしょうか?
(回答)
 ごく自然な疑問だと思います。
 効用関数として、
  U=xy
がよく使われる大きな理由は、この式の形だと「限界代替率逓減の法則」が成り立つことが挙げられます。
 限界代替率MRSとは、要は、「(満足度の観点で)X財1個分が、Y財何個分に相当するか」を表していました。
 そして、X財を消費すればするほど、X財1個分に相当するY財個数がどんどん減っていくことが「限界代替率逓減の法則」になる訳ですが、これはX財に飽きていくという、いかにも人間の消費行動らしい状況を表せているのです。
 それに対して、
  U=x+y
では、
  MRS=MUx/MUy=1/1=1
となり、限界代替率が定数となって、限界代替率が逓減してくれないのです。(無差別曲線の式がy=-x+Uとなり、右下がりの直線となるため、無差別曲線の接線の傾きであるMRSは定数になると考えても良いです)
 そのため、より人間の消費行動の特徴を表すことができている
  U=xy
を使うことが多いということになるのです。
 ちなみに、
  U=x+y
は「完全代替型」の無差別曲線を描く効用関数となりますが、詳しくは問題集第3講の<補足8>をご覧ください。

・ 右上の無差別曲線ほど曲線の長さが短くなっているのはどういうことでしょうか?
(回答)
 右上の無差別曲線ほど短く書いているのは、板書の都合であって本当は短くありません。短く見える無差別曲線も、右の方へ無限に伸びていますし、上の方にも無限に伸びているのです。
 例えば、授業スライド22にy=18/xという式で書ける無差別曲線が描かれていますが、y=18/xという式は反比例のグラフであり、このグラフは右の方に無限に伸びていますし、上にも無限に伸びているのです。

第4講 限界効用と限界代替率

 無差別曲線と関係のある「限界効用」と「限界代替率」について学んでいきます。

・ 授業動画を見る(計59分27秒)

1.効用関数と限界効用22分14秒
2.偏微分10分11秒
3.限界代替率27分02秒

・ 授業資料のダウンロード

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・ みんなの質問

クリックして表示(質問13件あり)
・ りんご5個以上食べたら、効用下がりそうだけど。もういらん、苦しいって。
(回答)
 そうですね(笑) 食べ過ぎると効用が下がりそうですね。
 このことについて経済学がどのように考えているのかは、問題集の第3講p.20<補足9>「好きな財とは?」で解説していますので、良ければご参考にしてみてください。

・ 限界代替率は−2にならないのでしょうか?マイナスの符号はつかないのですか?
(回答)
 限界代替率にはマイナスの符号をつけず、プラスの値とすることになっています。そのため、グラフからはマイナスの傾きに見えても、プラスの値に修正するのです。

・ 授業スライド9で、一番下段の式で指数−1/2が1/2になって分母に行くことは理解できるのですが、分母にxが引っ付いてくる理由がわかりません。(1/(2^(1/2)))xではだめなのでしょうか?
(回答)
 これは指数計算の特徴だと理解されると良いかと思います。
 例えば、
  2^(-3) :2のマイナス3乗
 これは、
  1/(2^3)=1/8
と計算されることになります。
 これと同じように、
  x^(-3) :エックスのマイナス3乗
 この場合は、
  1/(x^3) :エックス3乗分の1
となります。
 では、
  x^(-1/2) :エックスのマイナス2分の1乗
も同じで、
  1/(x^(1/2)) :エックス2分の1乗分の1
と計算することができるのです。

・ 授業スライド13で、yで偏微分するときにxを定数として考えることはわかったのですが、なぜ4x^2は0にならないのでしょうか?
(回答)
 「4x^2は、y^3にかけ算されているから」
というのが理由なのですが、順を追って説明していきます。
 もし仮に、
  z=4x^2+y^3
であれば、
  ∂z/∂y=0+3y^2=3y^2
となります。
 それに対して、
  z=4x^2*y^3 …①
のときは授業で扱ったように、
  ∂z/∂y=4x^2*3y^2=12x^2*y^2
となります。(*は「かける」、^は「〜乗」を表しています)
 なぜこのようになるかと言うと、次のような例を考えてください。
  y=3*x^2 …②
 この式をxで微分すると、
  dy/dx=3*2x=6x …③
になります。
 ②式において、3は定数であるのに、③式で0にならず、3のまま残っています。これは②式で、3はx^2にかけ算されているからなのです。
 つまり、①式をyで偏微分するときに、確かに4x^2は定数と見なすのですが、4x^2がy^3にかけ算されているので、0にはならず4x^2のまま残っているというわけなのです。

・ 限界代替率MRSを「X財が1単位増加したときに減らす必要があるY財が3単位ならMRSの値は3」と求めるとのことですが、Y財を横軸のように考えて「Y財が1単位増加したときに~」という求め方もできそうですが、そのような考え方をしない理由は何でしょうか?
(回答)
 限界代替率MRSと一言で言ったときには、通常、「X財のY財に対する限界代替率」(もしくは、「Y財で表したX財の限界代替率」とも言います)を表しています。つまり、(X財のY財に対する)限界代替率というように、括弧内が省略されているわけです。
 そのため、ご指摘されているような「Y財が1単位増加したときに~」という考え方をするには、「Y財のX財に対する限界代替率」を考えればいいのです。(その値は、通常のMRSの逆数になります)
 ちなみに、この内容は問題集 第4講p.16<補足6>が関連していますので、よろしければご覧ください。

・ 授業スライド28で、限界代替率が2y/3xと求まったわけですが、この式の示す意味は何でしょうか?
(回答)
  MRS=2y/3x
の意味ですが、xとyに値を代入することで初めて、MRSの値の解釈ができるようになります。
例えば、x=10、y=10を代入すると、
  MRS=2y/3x=(2×10)/(3×10)=2/3
になります。
 この値(MRS=2/3)の意味は「X財を10個、Y財を10個消費しようとしているときに、X財の消費をさらに1個増やせば(11個目のX財を消費すると)効用が上がってしまうが、Y財の消費を2/3個減らせば(Y財を9+1/3個消費すれば)元の効用に戻る」ということです。

・ 9個目を消費したときに総効用50、限界効用4と仮定すると、10個目の消費における総効用が54になるという考え方は合っていますか?
(回答)
 合っています。少し補足をしておくと、
9個だけ消費をしているときに、総効用50、限界効用4とすると、
10個だけ消費しているときの総効用は54です。
 また、10個だけ消費しているときの限界効用を3とすると、
11個だけ消費しているときの総効用は57です。
 また、11個だけ消費しているときの限界効用を2とすると、
12個だけ消費しているときの総効用は59です。
 この一連の状況では、限界効用が逓減していることも表現されています。

・ 問題集第4講p.20に、MRS=by/cxとなるとの記載がありますが、これは効用関数がコブ=ダグラス型の場合の公式の一つとして理解してよろしいでしょうか?
(回答)
 はい、その通りです。コブ=ダグラス型の効用関数で成り立つ特徴になります。

・ 限界代替率とは、X財を増加させた時の効用増加量がY財を減少させた時の効用減少量に等しいという関係が成り立つ場合なので、X財の増加量dx、Y財の減少量dyとしたときに効用の変化量dUが0となるということなので、全微分を使い、dU=(∂U/∂x)dx-(∂U/∂y)dy=0となり、MRS=dy/dx=(∂U/∂x)/(∂U/∂y)という解釈であってますでしょうか?
(回答)
 符号に関して気になる以外はまさにその通りです。
 効用関数U=U(x,y)とし、全微分を用いると、
  dU=(∂U/∂x)dx+(∂U/∂y)dy
となり、無差別曲線上では効用が一定であるため、dU=0とすると、
  0=(∂U/∂x)dx+(∂U/∂y)dy
  MRS :=-dy/dx=(∂U/∂x)/(∂U/∂y)
となり、限界代替率MRSが得られます。
 限界代替率MRSの符号はプラスで定義するので、-dy/dxとマイナスをつけることになっています。

・ 限界効用の比が意味していることは具体的に何なのでしょうか?公式は理解できても具体的に表していることが分からないです
(回答)
 結論は「限界効用の比は限界代替率MRSを意味している」に過ぎないということです。
  MRS=MUx/MUy …①
 この式が講義スライドの24から26で導出されました。導出方法はすでに授業で説明していますので、①式の直観的な意味について探っていきたいと思いますが、まずは限界代替率MRSの説明文が何であったかを確認します。(講義スライド17)
  限界代替率MRS:さらにxを1つ増やしたとき、元の効用に戻るために減らすyの値
 この説明文を用いると、もしX財の限界効用MUxがとても大きい場合は、「さらにxを1つ増やすととても効用が上昇してしまいますので、元の効用に戻るために減らさなければいけないyの値もとても大きくなってしまう」つまり、限界代替率MRSが大きくなるということです。(①式の右辺の分子が大きくなれば、限界代替率が大きくなるということです)
 他の状況も考えてみると、もしY財の限界効用MUyがとても小さい場合は、「さらにxを1つ増やして効用が上昇したとき、元の効用に戻るためには、限界効用の低いY財の減らさなければいけないyの値がとても大きくなってしまう」つまり、この場合も限界代替率MRSが大きくなるということです。(①式の右辺の分母が小さくなれば、限界代替率が大きくなるということです)

・ MRSが理解しにくいです。「MRSはMUxとMUyの比に一致する」ということなのでMRSの説明よりも限界効用の比率の解釈の説明が欲しかったです。
(回答)[直前の質問に対する回答とほとんど同じ内容です]
 限界効用の比の解釈は、限界代替率の意味そのものになります。
 また、効用最大化条件における限界効用の比とは、単なる限界効用の比ではありません。xの増加による効用の増加と、yの減少による効用の減少を一致させるという特殊な状況における限界効用の比を考えています。
 もう少し詳しく説明するために、X財に関する限界効用MUxとY財に関する限界効用MUyを変化分を用いて次のように書くとします。
  MUx=ΔU/Δx
  MUy=ΔU/Δy
 無差別曲線上で議論をするために(つまり、効用を一定として議論するために)、数値例として、
  Δx=3のとき、ΔU=10
  Δy=-6のとき、ΔU=-10
という状況を考えます。
 この状況は、「X財の消費量を3個だけ増やして効用が10だけ上がるが、効用を10だけ下げるためにY財の消費量を6だけ減らした」ということを表しています。
 では、この状況におけるMUx/MUyを考えてみます。
  MUx/MUy=(ΔU/Δx)/(ΔU/Δy)=(10/3)/(-10/(-6))=6/3(=-Δy/Δx)=2
と計算できます。(MUx/MUy=-Δy/Δxより、限界効用の比が「無差別曲線の負の傾き」になっていることも分かります)
 これより、限界効用の比(MUx/MUy)である「2」の意味は、「X財の消費量を1個だけ増やしたときに増える効用を、打ち消すようにY財の消費量を下げるとするならば、Y財の消費量を2個だけ減らす必要がある」ということになるのです。
 結論としては、限界効用の比の解釈というのは、限界代替率の意味に他ならないのです。
(つまり、「MUx/MUyの解釈は?」と聞かれると、先にご説明したようにMRSの意味を復唱することになってしまうので、「限界効用の比を改めてMRSと呼んでいるだけ(単なる名前付け)」と考えればいいということです)

・ りんごの限界効用の計算について、独立変数(りんごの消費量x)が離散的であるのに、限界効用を微分で導出しているのはなぜですか?
(回答)
 ご指摘の通り、りんごは1個、2個、3個…などと、とびとびの値(離散的な値)を考えるケースが、現実の財・サービスには多いです。ただし、経済学では通常、財・サービスの数量は、1個、1.5個、1.75個などと連続的な値をとるものとして議論していきます。
 説明に便利なため、動画内では離散的な値を用いた説明をしていますが、すべて連続的な値で数学的な議論をするとお考え下さい。(離散的な値で議論をすると、例えば効用曲線は階段状になってしまいますね)

・ 効用関数をf(x)=√xとすると、f'(x)=df(x)/dx=1/(2√x)です。x=aにおける限界効用とは「a個目のリンゴを食べている状態から、a+1個目のリンゴを食べた時にどれくらい効用が上がるか」という事だと理解したのですが、ここで実際に、a=4として計算してみると、f(4)=2、f(5)=√5、f'(4)=1/(2√4)=1/4となります。4個目のリンゴを食べている状態から、5個目のリンゴを食べた時にどれくらい効用が上がるかというのを求めると、f(5)-f(4)=√5−2となります。しかし、f'(4)=1/4であったので、これらの値が異なる理由がわかりません。
(回答)
 結論は、それが「誤差」というものなのです。(「第2講 価格弾力性」の授業スライド12で出てくる誤差の話です)
  ご提示いただいた数値例では、
  f'(4)=1/4=0.25 :微分
  f(5)-f(4)=√5−2≒0.236 :差分
となっていますので、値の大きさはおおよそ同じであることがわかります。これが「微分」と「差分」の間の誤差なのです。
 この誤差が気になるという方に対して、より正確な限界効用の説明は次の通りです。
 限界効用とは、「財の数量の単位を十分に小さくした上で、さらに1単位消費することで増える効用」(もしくは、「微小な1単位を追加的に消費することで増える効用」)となります。
(式で書いた方が理解が早い方もいらっしゃるかもしれないので、書いておくと、 微小な消費量の変化をdxとし、そのときの効用の変化をdUとする。このとき、dUをdxで割ったdU/dxが限界効用となる(まさにdU/dxは限界効用MUの定義そのものですね))
 これを直観的に表現すると次のようになります。例えば、りんごをさらに1kg(キログラム)食べたときに、増える効用は「微分」で求めた値と「差分」で求めた値との間で誤差がかなり大きくなります。それに対し、りんごをさらに1g(グラム)食べたときに、増える効用は「微分」で求めた値と「差分」で求めた値との間で誤差がより小さくなります。さらに、りんごをさらに1mg(ミリグラム)食べたときに、増える効用は「微分」で求めた値と「差分」で求めた値の誤差はさらに小さくなります。究極的には、りんご1単位を1μg(マイクログラム)、1pg(ピコグラム)、…と無限に小さくしていけば、「微分」で求めた値と「差分」で求めた値の誤差は完全に0になるということなのです。
 ただ、経済学で限界効用を説明する際に、「りんごをもう1pg(ピコグラム)食べたときに増える効用は…」などと説明していると、より正確な説明ではあるけれど、訳の分からない授業になってしまうので、「りんごをもう1個食べたときに増える効用は…」と説明して、多少の誤差というものを許容しているのです。
 「第6講 費用」のみんなの質問に「授業スライド15で、限界費用は…」という書き出しの質問が今回の内容に対応していますので、よろしければ合わせてご覧ください。

第5講 効用最大化

 第3講と第4講の知識を用いて、消費者の「効用最大化」について学んでいきます。

・ 授業動画を見る(計41分08秒)

1.効用最大化16分17秒
2.上級財・中級財・下級財10分25秒
3.需要曲線の導出14分26秒

・ 授業資料のダウンロード

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・ みんなの質問

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・ ギッフェン財の例はありますか?
(回答)
 私たちの身近には「ない」と答えた方がよいでしょう。例えば、化粧品だと安いほど品質が怪しい気がするので買わなくなるのでは…と思うかもしれませんが、そのような財はギッフェン財の定義から外れてしまうのです。(詳しくは、問題集「はじめよう経済学」第1講<補足5>、経済学用語集「ギッフェン財」の動画を参照)

・ 授業スライド16の2つの無差別曲線は交わってしまうように見えますが、無差別曲線は交わる場合もあるのでしょうか?
(回答)
 無差別曲線同士が交わることは決してありません。
 例えば、授業スライド14, 16, 18, 22, 26では、無差別曲線同士が交わってしまうように見えていますが、それは板書(パワーポイント)で上手く描くことが難しかったからに他なりません。

・ 横軸は「ある個人」がりんごを消費した数量という意味でしょうか?それとも、Aさん、Bさん、、、というように不特定多数の集団が消費した個数の合計でしょうか?消費の主体が誰なのかが気になります。
(回答)
 このご質問に関する回答は、はじめよう経済学+(Plus)「第1講 市場(続)」の授業内で説明しているので、ここでは結論のみを手短に説明しておきます。
 この第5講での消費の主体は「ある消費者個人」になります。同様に、第3講(予算線と無差別曲線)と第4講(限界効用と限界代替率)での消費の主体も「ある消費者個人」です。
 それに対して、第1講(市場)で登場する需要曲線は、消費の主体が「消費者全体」、つまり、需要曲線の横軸である数量とは、その市場に参加する消費者の消費量(需要量)の全体、ということになります。

・ ハーゲンダッツには、日本で販売する際に価格を少し高くすることで高級感を出すといった戦略があると聞いたことがありますが、ハーゲンダッツのアイスはギッフェン財の例になりますか?
(回答)
 企業(ハーゲンダッツ ジャパン)の戦略について私には確証がありませんが、このような戦略からハーゲンダッツのアイスの需要曲線が右上がりになっていると判断することはできません。例えば、1個250円で1000個売れていたとします(売上は25万円)。次に、1個300円に上がったときに900個売れたとします(売上は27万円)。この例だと、価格が上がって需要量は下がりましたが、売上は上昇していますよね。
 また、そもそもハーゲンダッツのアイスは確実にギッフェン財ではないでしょう。詳しくは、問題集「はじめよう経済学」第1講<補足5>を見ていただきたいのですが、ギッフェン財は下級財でなければなりません。所得が減って、ハーゲンダッツのアイスの需要量が増えるとはなかなか考えにくいと思います。

・ ヒカキンさんがYouTubeで儲けてトイレットペーパーの大量買いをしたことを考えると、ヒカキンさんにとってトイレットペーパーは中級財ではなくて、上級財になるという見方は正しいでしょうか?
(回答)
 トイレットペーパーの大量買いの主な原因が、所得の増加によるものなのかが不明確なので、こういった特殊な状況に引きずられて、トイレットペーパーが上級財かどうかという議論をすることはあまり有益ではないのかなと思います。
 例えば、ヒカキンさんの年収が(適当ですが)昨年は1億円、今年は8000万円として、今年になってトイレットペーパーを大量買いしたのであれば、果たしてトイレットペーパーは上級財と言えるのかということです。昨年と比べて今年は所得が減ったのに、トイレットペーパーの購入量を増やしていることになるからです。この場合は、トイレットペーパーの購入量増加の原因は、所得の変化というより、「動画撮影のため」、より一般的には(トイレットペーパーを使った動画が撮影したい!という)「選好の変化」によるものです。
 また、ヒカキンさんがYouTuberになる前と(トイレットペーパーの大量買いをした)今年を比較したら、ヒカキンさんにとってトイレットペーパーは上級財と言えることになります。
 ただ、このように考えていくとややこしくなるだけですので、所得が増えたことが主な原因で(平均的に)購入量を増やした財が、その人にとっての上級財だと考えた方がいいでしょう。

・ X財もY財も中級財のとき、所得が変化すれば最適消費点は変化しますか?
(回答)
 X財とY財の2財しかないと考える2財モデルの場合、2財とも中級財になることはありません。効用最大化のためには所得を使い切りますので(所得が余っていたら効用を最大化できていないということ)、所得が増えたら、少なくとも一方の財の消費は増えることになります。そのため、2財モデルで2財とも中級財として考えることはできないのです。同様の理由で、「中級財と下級財」「下級財と下級財」の組み合わせもありません。例えば、A社のカップラーメンとB社のカップラーメンの2財モデルを考えたとき、少なくともどちらかは上級財にならざるを得ないのです。

・ 授業スライド14で、中級財と上級財の2財を考えた場合に所得Iが増加すれば、最適消費点が真上にシフトするとのことですが、無差別曲線と予算制約線が真上の点で接することは保証されてないと思うのですがいかがでしょうか?効用関数をU=xyとすると少なくとも成り立ちませんが、逆にこの事例ではそもそもU=xyとするのが誤りで、上にシフトした時にも接するような曲線(上下に移動した曲線群)、例えば、(y-U)x=1のようなものを設定するということでしょうか?
(回答)
 結論は「その個人にとって、X財とY財がそれぞれ中級財と上級財であるような効用関数の形を考えている」ということになります。
 そのため、U=xyでは、X財とY財が中級財と上級財にはならないのです。(ちなみに、U=xyだとX財とY財はともに上級財になります)
 また、
  (y-U)x=1
という効用関数を例示いただきましたが、この式の形だとX財とY財がそれぞれ中級財と上級財になります。この効用関数は準線形型効用関数と呼ばれる効用関数に属するのですが、よくこの例を思いつかれましたね。
 この式を変形すると、
  U=-1/x+y
となり、効用最大化条件は、
  MRS=1/(x^2)
より、
  1/(x^2)=Px/Py
になります。
 そうすると、x*=√(Py/Px)
が得られます。
 この式は最適消費点において、x*が所得Iの影響を受けないことを表していますので、この個人にとってX財は中級財となります。 また、yは予算制約式より、
  Px・x+Py・y=I
  Px・√(Py/Px)+Py・y=I
  √(Px・Py)+Py・y=I
  y*=(I-√(Px・Py))/Py
となり、この式は所得Iの増加によってy*が増えることを表していますので、Y財は上級財となります。
 まさにご指摘の通りです。

・ X財が○級財、Y財が○級財という設定は、効用関数の式の形によって決まっているいうことでしょうか?
(回答)
 その通りです。
 効用関数の式の形によって、X財やY財が上級財、中級財、下級財、ギッフェン財のいずれかに決まるということです。

・ 実際の商品について、価格と販売量のデータがあれば需要曲線が求まるのでしょうか?
(回答)
 実は、現実の商品について需要曲線を推計することはほとんどありません。なぜなら実際に需要曲線を計算で求めることはとても難しいのです。
 例えば、インターネットで「需要曲線」と調べて、出てくるのは概念的な右下がりの曲線が登場してくるばかりで、具体的な商品に対して定量的に推計された需要曲線はほとんど検索には引っ掛かってこないことに気が付きます。
 統計学(より詳しくは「計量経済学」という分野)の知識を使えば、実際の商品について需要曲線を推計して求めることができるのですが、その計算をするには高度な統計学の知識が必要になってきます。そのため、研究レベルでは需要曲線を推計する分析は多くありますが、企業でのマーケティングといった実務レベルで需要曲線を推計することはあまりありません。
 需要曲線を実際の商品に当てはめて考える場合は、概念的、定性的に考えるためのツールとして使うことが一般的だと思います。
【参考】なぜ、価格と販売量のデータからは需要曲線が求められないのか?
 価格と販売数というのは、需要曲線と供給曲線の均衡点に対応するわけですが、均衡点は需要曲線や供給曲線のシフトにより動いてしまいます。
 もし、需要曲線が固定されていて、供給曲線のシフトのみによって均衡点が動いたのであれば、価格と販売数のデータのみで需要曲線を推計することができます。(すべての均衡点が需要曲線上に乗っているからです)
 しかし、実際には需要曲線も動いているはずですので、単純に価格と販売数のデータのみからでは需要曲線は推計できないのです。
 この辺り内容は、計量経済学の「同時方程式モデル」や「二段階最小二乗法」といった分野が対応しています。

第6講 費用

 企業の生産活動で生じる「費用」について学んでいきます。

・ 授業動画を見る(計50分53秒)

1.完全競争市場14分46秒
2.総費用・可変費用・固定費用16分06秒
3.限界費用・平均費用20分01秒

・ 授業資料のダウンロード

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・ みんなの質問

クリックして表示(質問8件あり)
・ この動画で登場している「平均費用」というのは「平均可変費用」と同じなのでしょうか?
(回答)
 動画内で登場する平均費用は、文字通り「平均費用」になり、平均可変費用ではありません。
 平均可変費用(や平均固定費用)はこの動画内では全く触れておりませんが、手短に説明させていただきますと、
  平均費用=平均可変費用+平均固定費用
という関係式がありますので、平均費用と平均可変費用は区別するものなのです。
(ただし、固定費用がゼロであれば、平均固定費用=固定費用÷生産量=0÷生産量=0になりますので、平均費用と平均可変費用の値は等しくなります)

・ 授業スライド15で、限界費用は(51個作るときのTC)-(50個作るときのTC)にならないのですか?
(回答)
 第2講の授業スライド12で説明したように「誤差」が生じます。つまり、(生産量50個における限界費用)≒(51個作るときのTC)-(50個作るときのTC)となり、ぴったりイコールになるわけではありません。限界費用はあくまで「総費用曲線の接線の傾き」ですので、(51個作るときのTC)-(50個作るときのTC)の値と完全には等しくならないのです。
<補足>
 授業では、限界費用を「さらに1つ生産することで増える費用」と書きましたが、より厳密に書くと、限界費用とは「財の数量の単位を十分に小さくした上で、さらに1単位生産することで増える費用」になります。式で書くと、微小な生産量の変化をdxとし、そのときの総費用の変化をdTCとすると、dTCをdxで割ったdTC/dxが限界費用MCとなる。(dTC/dxは限界費用MCの定義そのものである)
(第4講のみんなの質問の「効用関数をf(x)=√xとすると…」から始まる質問の内容が関連しています)

・ TCの関数を二次関数で表していましたが、グラフとしては三次関数ではないのでしょうか?
(回答)
 確かに、逆S字のTC曲線を描くためには、例えば三次関数を用いる必要があります。動画授業でTC曲線に二次関数を用いている理由は、数学としてのレベルが簡単になるからに他なりません。(同様の理由から、各種資格試験でもTC曲線に二次関数を想定することがよくあります)
 TC曲線を三次関数で表現するケースについては、問題集第6講<補足6><補足9>(また、関連して第7講<補足6>)をご覧ください。

・ 連続的なTC関数というのは会計学の知見から経験的に算出されるものなのでしょうか?
(回答)
 会計「学」とはあまり関係がないとお考えいただいた方が正しいように思います。
 企業の会計(帳簿)から、総費用曲線を推計することになりますが、例えば、経済学の本ではベストセラーである『ミクロ経済学の力』では、第2章で東北電力の限界費用曲線や平均費用曲線を推計しています。
 ただ実際には、各企業の総費用曲線などが推計されることはあまりありません。(マーケティングやデータサイエンスにいくら力をいれている企業でも、総費用曲線や限界費用曲線を推計している企業はほとんどないでしょう)
 総費用曲線、需要曲線、供給曲線など、ミクロ経済学で学ぶ考え方は、現実に当てはめる際には、あくまで「概念」や「考え方」として用いるものとご理解いただいた方が良いかと思います。つまり、「需要が上がれば価格が上がる」といったような定性的な思考を身に付けるということです。
 もちろん、研究レベルでは定量的な分析も出てきますが、それには経済学や統計学のレベルが跳ね上がりますので、大学院などで専門的に学ぶ必要が出てきます。

・ 生産活動における費用構造とはなんでしょうか?
(回答)
 「費用構造」という言葉は経済学で様々な使い方があるように思います。
 ただ、初歩的な経済学では、「総費用曲線のグラフの形」(総費用関数の式の形)と理解すればよいでしょう。
 同じ話ですが、平均費用曲線や限界費用曲線のグラフの形を企業の費用構造と言っても構いません。

・ 問題集第6講18ページの3.の問題では、MC曲線が2x-4となり、X<2の時はMCが負となります。これは限界費用が負、つまり生産すればするほど費用が低下するという事を意味するのでしょうか?
(回答)
 通常、限界費用は0以上と考えます。
 そのため、MC=2x-4というグラフは、x<2のときはMC=0、x≧2のときはMC=2x-4になると考えます。
 限界費用が負の場合は、ご指摘のように増産することで(総)費用が減るという、あり得ないことが起きてしまいます。そのため、限界費用が負になることはないとお考え下さい。
 ただ、細かい話にはなりますが、増産することで政府から補助金をもらえるといった制度が導入されているケースを考えれば、補助金も加味した限界費用は負になり得ます。
 例えば、ある製品の増産コストは10円であるが、その増産によって政府から100円もらえるのであれば、政府からの補助金も加味した限界費用は-90円となります。

・ 固定費用がなく、総費用曲線TC=axである場合、限界費用はMC=a、平均費用はAC=ax/x=aとなり、MC曲線とAC曲線が一致するという理解で合っていますでしょうか?
(回答)
 ご指摘の通り、MC曲線とAC曲線が一致します。
 また、このような総費用曲線TC=axのケースにおける利潤最大化の考え方について以下のように手書きのメモを作成しました。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/03/note20210306.pdf
 このメモで書いたように、Pとaの値の大小関係で場合分けをして考えていくことがポイントになります。
 ちなみに、「はじめよう経済学」の授業範囲では固定費用が存在していますが、もう少し内容が進むと「長期」における分析という内容になり、長期においては固定費用は存在せず、すべて可変費用と考えることになります。

・ AC曲線とMC曲線が交わり、AC曲線の最下点が損益分岐点となる理由がどうしても理解できません。収益が生まれるライン(TC曲線とTR曲線の交点)と平均費用が最低になるラインは異なるように感じているのですが、どのように考えればよろしいのでしょうか?
(回答)
 まず、損益分岐点においては利潤を最大化しているにも関わらず、利潤がゼロになっていることを思い出してください。
 それを踏まえた上で、損益分岐点において平均費用が最低となる直観的な理由は次の通りです。
「企業は利潤最大化をしようと、なるべく低い平均費用で生産をしようとしている。しかし、価格が低くなってしまっているために、最大限、平均費用が低くなるような生産量を選んでも(平均費用が最小になる)、利潤がゼロになってしまう。このように平均費用が最小になる、かつ、利潤がゼロになっている状態が損益分岐点になるから」…(*)
です。
 要は、「企業は平均費用が最低になるように最大限頑張ったが、利潤がゼロになっている状態が損益分岐点である」と考えると粗い説明ではありますがしっくりくるかもしれません。
 では、(*)のように考えてよい理由を説明していきますが、グラフを使う必要がありましたので、以下のURLに手書きの図を描いております。この図をご覧になりながら、以下の説明文を読んでください。(説明は多少難しくなりますが、ゆっくりと読んでみていただければ幸いです)
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/07/note20210709.pdf
 まず、価格がP1のとき、仮に点A、もしくは点Bで生産したとします。つまり、生産量x’、もしくは、x”で生産をしたということです。
 これらの場合、価格P1と平均費用が等しいので利潤はゼロになります。
 では、この企業が点Aか点Bで生産するかと言われれば、決してこれらの点では生産しません。なぜなら、価格がP1のときは点Cが利潤が最大となる点だからです。
 さらに、点Cの生産量x1では、平均費用が点Dの高さであるAC1になりますので、点Aや点Bよりも平均費用が低いことになります。
 これから何が言えるのかというと、価格がP1のときは利潤がゼロとなる点Aや点Bに比べて、利潤が最大となる生産量では平均費用がこれらの点よりも低くなるのです。
 これと同じ議論を、価格がP1よりもほんの少し低いP2でも考えてみます。この場合もやはり、利潤がゼロとなる点よりも利潤が最大となる生産量では平均費用が低くなることが言えます。
 この議論はP2よりも価格がほんの少し低いP3でも同様ですし、さらにほんの少し低いP4に関しても同様です。
 では、価格を損益分岐点(点E)における価格P0まで下げ続けたとします。
 すると、損益分岐点では利潤ゼロと利潤最大化が共存するわけですが、この場合は先程の議論から平均費用が最小になっていないとおかしいということになります。(図を見ながらこの感覚を掴んでみてください)
 このことから、損益分岐点では平均費用が最小になることが言えて、かつ、(*)のような直観的な理由と整合的になっているのです。

第7講 利潤最大化

 企業が「利潤最大化」するように生産量を決めるには、どうすればいいのかについて学んでいきます。

・ 授業動画を見る(計55分09秒)

1.利潤最大化条件8分14秒
2.生産量の決定①9分51秒
3.損益分岐点12分52秒
4.生産量の決定②24分12秒

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・ 現実でも企業は利潤最大化を目指していると考えても良いのでしょうか?
(回答)
 そのように考えて良いかと思います。
 もちろん、現実の企業はP=MCは意識していないでしょうが、結果的には、P=MCがおおよそ成立していると考えてよいのではないでしょうか。
 しかし、市場に参入したばかりの企業だと市場シェアをなるべく大きくしようとして、薄利多売で知名度を上げることを目的とするような場合もあります。(経済学には、これに関連した売上高最大化仮説という考え方もあります)
 ただ、株主になるべく多くの配当を支払えるようにと考えれば(配当は利潤から支払われます)、現実の企業も利潤最大化を目指していると考えるのが通常になります。

・ 価格が300万に対して、限界費用が299万9,999円…と限りなく価格に限界費用を近づけるという状態が最も利潤が高くなると思ったのですが、いかがでしょうか?
(回答)
 数学としては、
  0.999…≒1
は間違っていて、
  0.999…=1
が正しいです。(「0.999…=1」でネット検索するとたくさんの記事がヒットします)
 ご質問にある300万円に限りなく近づいた値というのは300万円なのです。

・ 微分してゼロを使う方法ですが、それは-x^2(乗)の式で表される場合だけに使えるやり方でしょうか?
(回答)
 -a*x^2(マイナスaかけるxの2乗)を含む式のとき「だけ」に使えるというわけではありません。他の式の場合でも「微分してゼロ」が使えるケースがあります。
 例えば、問題集第6講p.18<補足8>では、
  AC=x+4/x
という式から放物線のようなグラフが描けることを示していますが、この場合でも微分してゼロを使うとグラフの底に対応するx座標を求めることができます。
 つまり、x^2を含まない式であっても放物線のような見た目のグラフが描け、その場合でも微分してゼロを使えばグラフの最大や最小となるx座標が求まるのです。
 大学の定期試験や資格試験での利潤最大化の問題では、たいてい-a*x^2を含む式が登場し、微分してゼロを使って答えを求めることが多いので、問題を解いていて困ることはほとんどありません。

・ この授業で、縦軸にTRとTCをとっている図では、TR-TC=π、つまり、縦方向の幅(π)が最長のときが最大化(1)していることはよくわかるのですが、その③「損益分岐点」の動画で、縦軸をP(MCとAC)としている図で、TR=TC、つまり、π=0が利潤最大化とあり(2)、(1)と(2)の関係がよく分からないです。
(回答)
 とても良い質問です。
 次のURLに、(1)と(2)の対応関係について書いたグラフを載せましたので、どうぞご参考にしてみてください。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/09/note20210918.pdf

・ 問題集第7講の<補足10>における、𝜋 = 𝑇𝑅 − 𝑇𝐶 = 𝑃 ∙ 𝑥 − 𝑇𝐶 → 𝑀𝜋 = 𝑃 − 𝑀𝐶 = 0 → 𝑃 = 𝑀𝐶の式変形についてなのですが、利潤𝜋の式から𝑀𝜋 = 𝑃 − 𝑀𝐶 = 0という形になるのはなぜでしょうか?
(回答)
 まず、
  𝜋 = 𝑃 ∙ 𝑥 − 𝑇𝐶
この両辺を微分すると、
  𝑀𝜋 = 𝑃 − 𝑀𝐶
になります。(𝜋を𝑥で微分すると𝑀𝜋になり、𝑃 ∙ 𝑥を𝑥で微分すると𝑃になり、𝑇𝐶を𝑥で微分すると𝑀𝐶になります)
 さらに、利潤最大化条件が𝑀𝜋 = 0 になりますので(これは授業スライド27で出てきました)、
  𝑀𝜋 = 𝑃 − 𝑀𝐶 = 0
という式が得られるのです。

・ 利潤最大化の一階条件とは何でしょうか?
(回答)
 一階条件(一階の条件)に関しては、問題集の第5講<補足8>に記載しています。この補足では、効用最大化の一階条件について説明していますが、利潤最大化の一階条件も同様の考え方になります。
 粗い説明ですが、ものすごく簡単に言ってしまうと「微分してゼロ」が「一階条件」のことです。

第8講 GDP

 「GDPとは何か?」「名目GDPと実質GDPの違いは何か?」について学んでいきます。

・ 授業動画を見る(計51分51秒)

1.GDPとは14分37秒
2.GDPの特徴12分51秒
3.名目GDPと実質GDP24分23秒

・ 授業資料のダウンロード

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・ みんなの質問

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・ GDP、名目GDP、実質GDP、名目経済成長率、実質経済成長率のそれぞれの用途を教えていただけないでしょうか?どうしてGDPが実質GDPと名目GDPの2つに分かれるのかわかりません。
(回答)
 私たちの実質的な生活水準を規定するものが実質GDPです。(そのため、国の豊かさにより近い概念が実質GDPになり、経済成長の議論には実質GDPが使われます)
 それに対して、現実の企業経営やビジネスは比較年の価格を用いた名目ベースであるため、景状感を表すのは名目GDPの方だと主張されるケースもあります。
 基準年の価格を使うか比較年の価格を使うかといった計算上の都合もあり、実質GDPと名目GDPの2種類に分かれるわけですが、上記のような内容も実質GDPと名目GDPの2種類が存在する理由にはなります。
 結論を書かせていただくと、
 「国の豊かさ」や「国の経済規模」を表したGDPという指標があり、計算方法の違いから名目GDPと実質GDPの2つに分かれますが、経済成長を議論する場合には実質GDPを用いることが多いです。
 また、名目GDPや実質GDPは経済の規模自体を表しますが、その規模がどのように変化しているかを見るものが、名目経済成長率や実質経済成長率になるのです。

・ 株式、中古車販売等で発生する仲介料などはGDPに含まれると考えてもいいのでしょうか?
(回答)
 そのように考えて正しいです。
 株式を販売する証券会社や中古車販売所で発生する仲介料はGDPに含みます。なぜなら、仲介料とは、証券会社や中古車販売業者による仲介サービスに対して支払われたものだからです。証券会社や中古車販売業者が仲介サービス(財・サービスの内のサービスです)を生産した、つまり、新しい価値を生み出したと考えるので、仲介サービスの生産は付加価値に含めるのです。
 この辺りの内容は問題集第8講のp.6に記載しています。

・ 中古品、土地、株式の販売額はGDPに含まれないとのことですが、例えば中古車販売業者が車を仕入れ、売却した場合の売却益や、不動産業者が自ら土地を購入し、造成して販売した場合の売却益もGDPに含まれないのでしょうか。それとも仲介サービスの手数料とみなして、含まれるのでしょうか?
(回答)[直前の質問と関連しています]
 仲介サービスの手数料とみなし、GDPに含めることになります。
 中古車販売業者や不動産業者が、仲介サービスというサービスを生産することによって付加価値が増加したと考えられるためです。
 確かに考えてみれば、中古車販売業者や不動産業者が、中古車や土地に関する情報などを集めてくれたことによって、家計は便利に中古車や土地を購入できたわけです。これが仲介サービスの生産であり、中古車販売業者や不動産業者による購入金額と売却金額の差が、仲介によって生み出された付加価値に等しいと解釈するのです。

・ GDPは付加価値総額または最終生産額ということですが、GDPの計算では物価×生産額みたいな式に置き換わっています。どのように置き換えているのでしょうか。繋がりがイメージできません。
(回答)
 例えば、授業スライド16に「例題」がありますが、食料品も衣料品も最終財になります。
 つまり、すべての最終財について価格×生産量を求め、そして、すべての最終財のついて足していけば、最終生産額(=GDP)となるのです。
 このように、GDP=物価×生産量というような式で表す考え方は、最終生産額を求める考え方に対応しているのです。

・ 大学の講義で「帰属家賃」という単語が出てきました。大学の先生の説明を聞いてもよくわかりませんでしたので教えていただけないでしょうか?
(回答)
 帰属家賃の考え方は、初めて聞いた方にとってはなかなか理解し難い内容のように思います。説明は問題集の第8講<補足7>でしていますので、参考にしてみてください。また、経済学用語集「帰属計算」では動画で説明していますので、よろしければそちらも合わせてご覧ください。
 帰属家賃の要点を書いておくと、
「持ち家の人が(本当は支払ってないんだけど)家賃を支払っていると見なして、その金額をGDPに加える」
ということが帰属家賃の考え方になります。

・ GDPデフレーターを求める式で、名目GDP÷実質GDP×100となるのはなぜなのでしょうか?例えば、実質GDP÷名目GDP×100だと、どうおかしくなるのでしょうか?実質GDP以上に変化した名目GDPがどれだけ実質GDPよりかけ離れているかを求めるために、この公式になる、ということでしょうか?
(解答)
> 実質GDP以上に変化した名目GDPがどれだけ実質GDPよりかけ離れているかを求めるために、この公式になる、ということでしょうか?
 そのように考えることも正しいです。ただ、GDPデフレーターに物価指数の意味合いがあることがより重要になります。
 授業スライド14を見ていただきたいのですが、
  GDPデフレーター=名目GDP÷実質GDP×100
という式で表せるからこそ、基準年(2015年)の物価を100として、比較年(2020年)の物価を120として表せています。
 GDPデフレーターの式を変更してしまうと、比較年の物価指数を表す指標として不適切なものとなってしまうのです。

・ 名目GDP>実質GDPとなるとき、物価と販売量の増減はどのように変化していると考えればいいのでしょうか?
(回答)
 授業でも説明した通り、比較年の名目GDPと実質GDPの計算には数量(販売量)に関しては同じ値を用います。
 そのため、比較年の名目GDPと実質GDPの大小を比較する上では、数量の増減は関係なく、物価の増減(GDPデフレーター)だけを見れば良いことになります。
 つまり、基準年よりも比較年の方が物価が上昇していれば、
  名目GDP>実質GDP
となり、物価が下落していれば、
  名目GDP<実質GDP
となります。

・ 外国にある日本企業で働いている外国人に支払われる給料は、GNPからマイナスすれば良いのでしょうか?
(回答)
 外国で働いている外国人は(日本法人で働いているかどうかに関わらず)日本の居住者ではありませんので、日本のGNPには含まれません。ちなみに、このケースでは日本のGDPにも含まれませんので、GDPからマイナスするという操作をする必要もありません。(外国をアメリカとすれば、その外国人が受け取った給料はアメリカのGDPとGNPの両方に含まれるのです)

・ 問題集第8講の<補足2>の「イチローの所得は日本のGDPにもGNPにも含まれず、アメリカのGDP、GNPに含まれているのである」の意味と3ページ冒頭の図との関係がわかりません。イチローの所得は、同図の「日本人の所得(海外からの所得)」になぜ入らないのでしょうか?
(回答)
 <補足2>に書かせていただいたことが、より正確な記載になり、3ページ冒頭の図は少し粗い説明になります。
 3ページ冒頭の図に書かれてある「日本人の所得(海外からの所得)」の「日本人」という箇所が正確ではありません。
 2年以上海外に居住していると「海外の居住者」と見なされることになります。
※ 日本の非居住者となる条件が、国外に2年以上居住していることになります。
 (現在、イチローさんがどこに住まれているかは存じ上げませんが)2年以上海外に居住していた頃のイチローの所得は、日本のGNPには含まないということです。もし仮に、イチローの海外での居住期間が2年未満であれば、日本の居住者とみなされ、イチローの所得は日本のGNPに含めることになるのです。

・ 問題集第8講p.7で「工場が支払う電気代」はGDPに入らないと書かれてあります。電力会社から見れば電力売上になるわけですが、企業による電力消費の方が家庭による電力消費より大きいと思いますので、これらがGDPに含まれないとなると電力会社の売り上げの大半がGDPに入らないことになるのでしょうか?
(回答)
 電力会社の企業への販売分はGDPに含まれないということですが、その理解で合っております。
 例えば、産業連関表という統計データを見ると、2015年において日本の電力の生産額(売上高)は20.3兆円ですが、そのうち、中間財として産業用に販売された分は14.9兆円(全体の73%)、最終財として家計に販売された分は5.4兆円(全体の26%)でしたので、電力の売上の多くはGDPに含まれていないことになります。
 ただし、企業に中間財として販売された電力も形を変えて何らかの財・サービスに形を変えるわけですので、企業用に販売された電力も間接的にはGDPの増加に貢献していると考えてよろしいかと思います。二重計算を避けるために中間財としての電力の売上を除いているだけのことになります。(例えば、この授業でも小麦の売上はGDPからは除外されていましたが、そもそも小麦が作られなければパンが作れませんので、小麦の生産も間接的にはGDPに貢献しているということと同じですね)

・ 四半期ごとに話題となるGDPですが、いわゆる各種報道の「年率(換算)」は「前四半期比」(例えば、2020年10-12月期に対して2020年7-9月期)をほぼ4倍したような数字に見えます。本来ならば「前年同期」(2019年10-12月期)の絶対値と比較した方が正しいと思います。(特に、昨年がコロナ禍というような特殊事情があった場合) これは実務的に前年同期の絶対値の把握が難しいからでしょうか。
(回答)
 ご指摘のように年率(換算)は前四半期比の約4倍になります。
 例えば、2020年7-9月期に対する2020年10-12月期の実質GDPの成長率は、3.0%(年率12.7%)と公表されています。12.7%の計算方法は、(3ヵ月で)3.0%の成長が1年間に渡って続いた場合を想定して計算されています。つまり、
  1.03×1.03×1.03×1.03-1≒0.127
として計算されます。(複利計算のようになりますので、ちょうど4倍ではなく、4倍よりも少し大きな値になります)
 また、なぜ前年比ではなく、前四半期比(前期比)を用いているのかということですが、まず前提として、前期比の成長率を求める場合に、季節調整という計算がされていますので季節によるGDPの変動は除去されています。
 そのため、「前期比」で実質GDPの成長率を見ることで、経済の足元の動きを見ることができるます。
 それに対して、「前年(同期)比」で実質GDPの成長率を見ることもありますが、この場合は経済の大きな流れを掴むことができます。
 したがって、前期比がよく公表される理由は、前年比の把握が難しいからではなく、経済の足元の動きを見ているということになるのです。

・ GDP=国民所得について教えてください。例えば、農家が生産した10万円分の小麦ですが、農家を企業と考えた際に、生産した(売上の)10万円の一部は給与や賞与(所得)になると思いますが、実際には開発費用や設備投資等にも使われると思います。GDP=国民所得となる根拠についてもう少し詳しく教えて頂けないでしょうか?
(回答)
 そのご質問は次の授業「三面等価の原則」に関連しています。
 開発費用や設備投資に用いる金額は、一旦、企業に分配された上で、使われていくと考えます。つまり、「一旦、企業に分配された」時点に着目すれば、国民総生産=国民所得と解釈することに納得がいくのではないでしょうか。
 三面等価の原則を意識して詳細を書いておくと、開発費用や設備投資の原資は、分配国民所得の中の「営業余剰」という項目に入ります。その上で、開発費用や設備投資として資金を使用すると、支出国民所得の中の「総固定資本形成」という項目に含まれます。
 この授業は入門レベルなので、営業余剰や総固定資本形成という用語は授業内では出てきませんが、問題集の第9講には詳しく書いていますので、もしご興味があればご参考にしてください。

第9講 三面等価の原則

 「三面等価の原則」について学び、「45度線分析」への準備をしていきます。

・ 授業動画を見る(計39分36秒)

1.三面等価の原則14分12秒
2.45度線分析への準備6分50秒
3.消費関数・投資・政府支出18分34秒

・ 授業資料のダウンロード

授業スライドノートなしノートあり
小テスト問題解答
問題集問題解答

・ みんなの質問

クリックして表示(質問17件あり)
・ 所得が1万円増えたのでギャンブルに行き、3万円負けた場合は限界消費性向が1を超えるのでしょうか?
(回答)
 マクロ経済学は、あくまでマクロ経済を分析する学問ですので、限界消費性向も国民全体としての傾向を見るのです。
 確かに、個人としては限界消費性向が1を超える人もいるでしょうが、国民全体で考えれば1を超えないのです。

・ 限界消費性向が1を超える状況があるとすれば、それはどのような状況でしょうか?
(回答)
 上の質問で回答したように、私たちが学んでいるのはマクロ経済学ですので、限界消費性向とは国民の平均的な限界消費性向を意味します。人によっては個人の限界消費性向が1を超える場合もあるでしょうが、国民全体として平均的に限界消費性向が1を超えることはあり得ないと考えた方がよいかと思います。
 それでは、国民全体としての限界消費性向が1を超える場合を考えたときの解釈はどうなるかということですが、国民が一斉に貯蓄残高からお金を引き出して、所得の増加以上の消費を行った場合に、限界消費性向が1を上回ります。
 (国民)所得Yや消費Cはフローの概念です。それに対して、貯蓄残高はストックの概念です。ストックである貯蓄残高からお金を引き出してもフローである所得Yには何ら影響しません。ただし、引き出したお金を消費Cに回せばフローである消費Cは増加しますので、増加した所得以上に消費をすることが理屈上は可能になるのです。(フローやストックに関しては、問題集第8講<補足9>で説明しています)

・ 限界消費性向は一定と仮定されています。しかし、所得が少なく、生活がキツキツであって(C0付近)、追加の1万円が入ったらその全てを消費に回す(回さざるを得ない)ということはないでしょうか?逆に、所得が何千万円もあるならば、1万円増えても、特に何か消費する必要もないように思います。つまり、限界効用のように限界消費性向も、初めは高く、やがて下がる(逓減する)の方が実生活に合っている気がします。限界消費性向を一定とする理由があるのでしょうか?
(回答)
 回答として次の2点を挙げさせていただきます。
① マクロ経済学の消費Cとは、あくまで国全体での消費を表しており、個々人の消費を表しているわけではありません。(ついつい、分かりやすく解釈するために、個人レベルで解釈してしまうこともありますが、あくまで私たちは「マクロ」経済学を学んでいますので、国全体としての消費をイメージする必要があります)
 そうすると、ある国の国民所得(GDP)Yが、ある年には極端に低い値をとったり、ある年には高い値をとったりということは通常考えませんので、限界消費性向cに安定的であり一定値になる、と考えることにはそれなりの妥当性があるのです。
② マクロ経済学の消費関数C=cY+C0(やC=c(Y-T)+C0)には、ミクロ経済学で学んだような効用最大化の考え方が欠如しています。これを(基本的な)ケインズ経済学には「ミクロ的基礎付け」がないと表現します。ただ、マクロ経済学の勉強をもっと進めていくと、ミクロ的基礎付けがあるモデルを勉強することとなります。
 そういった場合には、国民所得Yが低いときにはその大部分を消費し、Yが大きいときには、消費の増加が非常に小さくなるような結論を得ることも可能になります。(まさにご指摘いただいたような、国民所得が小さいときは限界消費性向が大きくなり、国民所得が大きいときは限界消費性向が小さくなるという考え方ですね)

・ 限界消費性向cはどのようなときに上昇しますか?
(回答)
 限界消費性向の変化の要因として、よく説明に取り上げられるのが「将来不安」と「高齢化」になります。
 将来不安に関しては、国民の将来不安が大きくなると貯蓄を増やそうとする傾向が大きくなり、限界消費性向が下がるという内容です。(逆に、将来不安が取り除かれると限界消費性向が高まるということです)
 次に、高齢化に関しては、高齢者は若者と比べてお金を使いやすい傾向にあるため、人口に占める高齢者の割合が大きくなると、限界消費性向が自ずと高くなるという内容です。
(ちなみに、どちらの内容もストーリーとしては分かりやすいので説明に使われることが多いのですが、実際のデータを用いた研究では、これらの説を否定する研究もあったりしますので、慎重に判断する必要はありそうです)

・ 限界消費性向は0<c<1と仮定されています。増えた所得を全部使ってしてしまう、あるいは、全く使わない(全て貯蓄)ということはありえないのでしょうか?また、不等号が「以上」や「以下」ではないことについて、何か理由があるのであればお教えください。
(回答)
 あくまで国全体の(国民)所得や消費を考えていますので、cが1を超えたり、cがマイナスの値をとったり、もしくは、c=1となったり、c=0となったりはしないと考えるのが通常です。
 また、「<」なのか「≦」なのかということですが、0≦c≦1と書いている本もありますので、どちらでもよいと考えれば良いでしょう。

・ 消費関数の意味がよくわからず混乱しています。Y=C+I、C=cY+C0としたときに、C=cY+C0が消費関数になりますが、Y=C+Iを変形するとC=Y-Iとなり、この式は消費関数とどう異なるのでしょうか?
(回答)
 C=Y-Iを消費関数と考えることは誤りです。
 Y=C+Iとは財市場均衡条件を表した式で、有効需要の原理から総需要であるC+Iが決まれば、総供給であるYが決まると考えるので、「原因」がC+Iで、「結果」がYになるような因果関係が根本にあります。(実際には、消費関数よりCはYに依存するので、消費関数と財市場均衡条件の連立方程式を解かないとYとCの値は確定しません)
 それに対して、消費関数は「原因」を国民所得Y、「結果」を消費Cとした場合の、YとCの因果関係を表した式になるのです。

・ Y^S=Yというのは、GDPの定義に基づくと自然に導かれる式っていう理解でよろしいでしょうか?
(回答)
 その理解で結構です。GDP(=Y)とは、付加価値総額のことですので、まさに「(生産活動によって)付け加えられた価値の合計額」ということで総供給Y^Sを表しているのです。

・ 「財市場が均衡している状態」とは、在庫品増加がない状態のことで、それはその年に作った量と買われた量とがぴったり一致しているという理解で合っていますでしょうか?
(回答)
 ご指摘の通り、ある年に「財市場が均衡している状態」というのは、その年に「作った量と買われた量が同じ量」と考えればわかりやすいですね。
 しかし、より正確にはもう少し複雑で、在庫にも「意図せざる在庫」と「意図した在庫」の2種類があります。要は、前者が「売れると思っていたけど売れなかった在庫」、後者が「来年のために先に作っておくような計画的な在庫」のことです。
 「財市場が均衡している状態」というのは、正確には「意図せざる在庫品増加がない状態」を表しているのです。(この辺りの詳しい話は問題集第9講p.6で説明しています)

・ 第8講で生産国民所得(GDP)には中古品の取引額や株売買による儲けを含まないということでしたが、これは三面等価の原則を成り立たせるためにGDPから除いているということなのでしょうか?
(回答)
 三面等価の原則を成り立たせるためというよりは、中古品の売上や株の値上がり益などは今年新たに生み出された付加価値ではないからGDPに含めないのです。
 そもそも、GDPはある年にどれくらいの価値が生み出されたのかを計測するものなので、それに該当しないものはカウントしないということです。

・ 支出国民所得は国内に関する項目だけではないのですか?支出面に「輸出」や「輸入」が含まれていたので疑問に思いました。
(回答)
 非常に大切な点を突いたご質問です。
 この点については、初学者にとっては混乱を招く点になりますので、この動画の概要欄[授業の補足]、問題集の第9講<補足5>、はじめよう経済学+(Plus)の第8講④の動画、で追加の説明をしています。詳しくは上記のいずれかを見ていただくとして、要点をまとめると次の通りです。
 支出国民所得は、国内で生産された財(つまり、日本産の財)に対して1年間に支出された額になります。輸出EXは、日本産の財に対する外国人による支出ですので、輸出EXを支出国民所得に含めるのは何ら問題ありません。
 ただし、消費C、投資I、政府支出Gには注意が必要です。C、I、Gは日本産の財と外国産の財に対する支出を含んでいるのです。そのため、C、I、Gから外国産の財に対する支出を差し引く必要があります。この差し引く額こそが輸入IMなのです。
 まとめると、「C、I、Gは日本産の財と外国産の財に対する支出を含んでいるため、外国産の財に対する支出を除くために輸入IMをマイナスの項として支出国民所得に含めている」ということなのです。

・ 生産国民所得は付加価値総額で、棒グラフでいうと授業スライド2の赤い部分だと説明されていましたが、そうすると支出国民所得とイコールにならないと思うのですが、詳しく教えていただけないでしょうか?
(回答)
 確かに、授業スライド2では「付加価値の部分」と「支出国民所得に対応する部分」がイコールにならないように見えますね。
 この図は、第8講の授業スライド5の一番右(パン)の棒グラフに対応していて、小麦や小麦粉の棒グラフは省略して説明しているので、「付加価値の部分」と「支出国民所得に対応する部分」が一致していないように見えているだけなのです。

・ 生産=分配、生産=支出は分かるのですが、分配=支出が感覚的に理解できません。例えば、家計以外は0と仮定して、分配(賃金)が100に対して、60を消費して40を貯蓄したとすると、分配100≠支出60となるかと思うのですが、どのように考えるとよいのでしょうか?
(回答)
 ご提示いただいた例では、40が在庫品増加*となります。
 * より正確には「意図せざる在庫投資」といいます。
 三面等価の原則において、この40は投資Iに含まれることとなります。つまり、
  生産=100
  分配=100
  支出=C+I=60+40=100
となるのです。
 ただし、45度線分析では、(意図せざる)在庫品増加は投資Iに含めませんので、上述の例では、
  生産(Y^S)=100
  分配=100
  支出(Y^D)=C+I=60+0=60
となります。この状況では、Y^S>Y^D、つまり、財市場で40の超過供給(=Y^S-Y^D=100-60)が生じていると考えることができます。
 結論をまとめると次の通りです。
 ご提示いただいた例において、消費されなかった40は、投資Iに無理矢理含めることによって、三面等価の原則を成り立たせているのです。

・ なぜ、国民総生産(GNP)=付加価値総額 ではなく、国内総生産(GDP)=付加価値総額 になるのでしょうか?
(回答)
 実際に計測される付加価値が、「国内の企業が生み出した」付加価値を測っているからです。
 ちなみに、海外の日本人が生み出した付加価値を、実際に一人ずつ測るといった統計は存在しません(その代わり、海外の日本人が受け取る所得は統計上得ることができます)
 このように、「国内の企業が生み出した」付加価値を、単に付加価値と呼ぶことが通常ですので、
  GDP=付加価値総額
となるのです。

・ 基礎消費を考えることの意義について教えてください。
(回答)
 基礎消費(基礎的消費、独立消費、自律的消費とも言われます)の意義についてです。
・(授業で説明した通りですが、)所得がゼロでも最低限必要な消費が基礎消費です。
・基礎消費は所得には依存しません。(ただし、資産水準など所得以外の要因に依存する可能性があります)
・基礎消費は、通常、外生変数ではなく定数として扱います。そのため、基礎消費が増えたら…や、減ったら…といったことを考えるケースは少ないです。
・短期的には所得の増加に伴い平均消費性向(C/Y)が低下することが実証されていますが、平均消費性向が低下するために重要な項が基礎消費です。

・ 総需要から除外される在庫投資とは売れ残りの意図せざる在庫のみで、意図した在庫増加は民間投資Iに含まれると考えて良いでしょうか?
(回答)
 その理解で合っています。
 企業が将来の販売の増加を見越して計画的に在庫を積み増す「意図した在庫投資」は、投資Iに含めることになります。この辺りの内容は、問題集の第9講p.6に記載していますので、よろしければご参考にしてみてください。

・ 問題集本講p.2での分配国民所得の式「雇用者報酬+営業余剰+間接税-補助金+固定資本減耗」について、補助金が減じられるのはどういうように理解すれば宜しいでしょうか?固定資本減耗については、生産された付加価値の一部が固定資産償却にも振り分けられるという意味で理解できますが、補助金を減じる理由が理解できません。
(回答)
 次のように考えられるとご納得いただけるのではないでしょうか。
 まず、企業が生産をして、その付加価値が「生産国民所得」になります。そしてその付加価値がどう分配されるか、言い換えれば、企業からお金がどのように振り分けられていくかを「分配国民所得」が表しています。
 そうしたときに、雇用者報酬は企業から家計に渡されることになりますので、これを、
  雇用者報酬:企業→家計
というようにお金の流れを書いて表しておくものとします。
 同様に考えると、
  営業余剰・混合所得:企業→企業*
  生産・輸入に課される税:企業→政府
  補助金:政府→企業
  固定資本減耗:企業→企業**
* 企業に残るお金だからです。ひとまず企業にお金が残ったと考えた上で、配当や利子の支払いをします。
** ご指摘いただいたように、生産された付加価値の一部が固定資産償却にも振り分けられると考えられて結構です。
 以上から、補助金のみ、企業からのお金の分配ではない、かつ、企業のお金の受け取りになっています。このように企業が分配される側になっている補助金はマイナスになっていると考えられてはいかがでしょうか。
 この補助金については別の観点からの説明もあるのですが、これについては問題集第8講のp.5でコメントをしていますので、ご参考にしてみてください。

・ 経済政策として現金給付がありますが、現金給付は三面等価の原則にどのように対応するのでしょうか?(「政府が現金を給付する」と言うのは政府支出の増加で良いですか?)また、現金給付という政策には効果あると思われますか?
(回答)
 政府が現金給付をした段階ではGDPは増えません。(付加価値を生んでいないからです)
 現金給付は分配国民所得に入るのでは?と考えた人もいるかもしれませんが、分配国民所得にも入らないのです。
 では、どうなった時点で現金給付がGDPに影響するのかというと、お金を受け取った私たちが消費をした時点でGDPが増加することになります。消費は支出国民所得の中の項目ですね。(ちなみに、政府支出とは、財・サービスに対する政府の支出になりますので、現金を給付しただけでは、政府支出にはなりません。公共事業というのは、政府による資本財(道路や橋など)に対する支出なので、政府支出としてGDPを高める要因になるのです)
 昨今、問題になっていることは、現金給付を受けても私たちが貯金してしまい消費に回さない割合が大きいということかと思います。つまり、現金給付という政策は、消費に回らなければGDPが増えないという特徴があるのです。
 次に、現金給付という政策に効果があるのかというご質問ですが、これは政策の目標が何であるかによって結論が異なると思います。
 もし、現金給付の目的がGDPを上げるためであれば、先程挙げた理由からあまり効率的な政策ではないと思います。また、生活に困窮している者への再分配としての役割を重視するのであれば、目標はある程度達成できるかもしれませんが、国民全員に配ることはやはりあまり効率的ではないかもしれません。政権の支持率を上げるためといった政治的な目標があるのであれば、また見方も変わってくるでしょう。
 現金給付に関しては、他にも様々な論点があるでしょうから、私の意見はこの程度にさせていただきたいと思います。

第10講 45度線分析(1)

 45度線分析を用いて、有名な「有効需要の原理」や「乗数効果」について学んでいきます。

・ 授業動画を見る(計38分45秒)

1.前回の復習7分07秒
2.財市場の均衡12分06秒
3.有効需要の原理と乗数効果19分32秒

・ 授業資料のダウンロード

授業スライドノートなしノートあり
小テスト問題解答
問題集問題解答

・ みんなの質問

クリックして表示(質問8件あり)
・ 限界消費性向が0.8であるのは、経験則でいつもこの値になるのでしょうか?
(回答)
 限界消費性向は定数というわけではなく、国や時代や経済状況によって変わり得る値となります。授業で0.8を用いた理由は、アメリカの限界消費性向が0.7~0.9程度であり、経済学の教科書や計算問題ではこの程度の値がしばしば使われるためです。ただし、日本の限界消費性向は約0.2と試算されることもあります。
(以下の日本銀行のレポートでは、日本における所得階層別の限界消費性向の値が試算されています)
https://www.boj.or.jp/mopo/outlook/box/data/1610BOX3a.pdf
日本人はアメリカ人と比べると貯金好きということがよく分かりますね。

・ 乗数効果の定義は何でしょうか?
(回答)
 乗数効果とは、有効需要を増加(減少)させたときに、その増加させた額より大きく国民所得が上昇(下落)することです。

・ かつてのアメリカでのニューディール政策でも、乗数効果を用いて経済を回そうとしたのでしょうか?
(回答)
 アメリカで1933年に始まったフランクリン・ルーズベルト大統領によるニューディール政策ですね。
 ちなみに、ケインズが乗数理論をきちんと提唱したのが、同じ1933年に出版された著作『繁栄への道』においてです。
 つまり、ルーズベルト大統領も等比数列、要は乗数効果を意識して政策を始めた可能性は低いと思われます。
 ただ、当時の政府内や経済学者間でも政府が大規模な政府支出をした方が良いとの見方が大勢になってきたようですので、そう言った流れを受けてニューディール政策が実施されたのだろうと思います。
 ちなみに、ケインズはイギリス人ですので、アメリカの経済政策に直接影響を及ぼせる立場にはないこと、ケインズの主著である『雇用・利子および貨幣の一般理論』(略して『一般理論』)の出版年は1936年であることも注意すべき点ですね。

・ 例えば授業スライド22で、もっと作ろうとしてYが右に動く理由がわかりません。横軸は数量ではなく、国民所得Yなので、作る数量でないと思うのです。
(回答)
 国民所得Yはしばしば「生産量」と読み替えられます。なぜ読み替えても良いのかは、次のように考えられるからです。
 第8講で学んだように、GDPは最終生産額でもありました。最終生産額とは「最終財をどれくらい生産したのか」ということですので、最終財という財を生産すればするほど、国民所得Y(GDP)は増加するのです。
 そのため、国民所得Yは生産量(正確には、最終財の生産量)と読み替えてしまうことが多いのです。
 なので、理論上、最終財という1種類の財を考えていて(1財モデル)、その最終財の生産量が国民所得Yのことであるとご理解されると良いかと思います。
(ところで、最終財と一言でいっても世の中には数多くの種類の最終財があります。車も最終財ですし、缶ジュースも最終財です。では、車1台と缶ジュース1本を足して、最終財2個といっていいのかというと、それはさすがに問題がありそうですね。この点をどう考えるのかというと、(詳細は省かせていただいて結論だけを書いておくと)Yは実質GDPを表していて、P×Yが名目GDPを表している(P:物価)と考えるのです)

・ 問題集第10講のp.4で「(明示的に考えている)生産要素は労働しかなく、資本や土地は定数として考えている」の箇所ですが、実際には、たとえ完全雇用国民所得を達成している状態でも、機械設備(資本)の導入や技術革新などを通じて国民所得を増やせる場合があると思います。なぜ、労働以外の生産要素を定数としているのでしょうか?
(回答)
 労働以外の生産要素を定数と仮定できる理由ですが、ケインズが「短期」において、いかに失業問題を解消するかということに注目していたことが挙げられます。
 短期においては、土地の広さはもちろんのこと、資本量(工場・機械など生産設備)は固定されていると考えることができます。また、短期では技術革新も生じないと考えます。

・ 限界消費性向cは、結局は「YにおけるCの割合」を意味するものと思うのですが(C0はとりあえず無視)、そうすると、Y=C+I+Gにおいては、必然的に1-cが、YにおけるI+Gの割合となってしまい、cを用いることと、I, Gを定数とすることは前提が矛盾してしまい成立しなくなると思うのですが、いかがでしょうか?
(回答)
 確かに、消費関数をC=cYとすると、
  Y=C+I+G
より、I+GはYの1-cの割合になりますね。私は意識していませんでしたが、このように指摘されたのは初めてでしたので、確かにその通りだなぁという感想です。
 さて、お答えさせていただきます。
 IとGは定数と書いていますが、正確には「外生変数」と言い、値を分析者が好きに動かしてもよい変数になります。(だから、政府支出乗数や投資乗数という考え方があるのですね。
  ΔY=1/(1-c)*ΔG ΔY=1/(1-c)*ΔI
もし、IとGが完全に定数だったら、IやGの値を動かしてはいけないわけです)
 このことが、ご質問に対する答えとして重要になるポイントなのです。ではご質問に戻るとして、
 消費関数をC=cYとしたとき、次のような式変形ができます。
  Y=C+I+G
  Y=cY+I+G …①
 ①式から、Yの値が上がれば、Yの値の1-cの割合がI+Gなので、I+Gの値も上がるのが変ではないか?というご指摘ですね。これは変なことでも何でもなくて、そもそも、IかGのどちらか(もしくは両方)の値が上がったからこそ、Yが上がったはずなのです。つまり、これは単純に乗数効果の話なのです。
 IやGは外生変数であり、IやGの値を大きくしたからYが大きくなったわけで、そもそも、IやGの値を大きくせずにYの値は大きくならないのです。

・ 消費関数がしっくりきません。基礎消費の概念は理解できます。ですが、それを取り入れるのであれば、消費関数は基礎消費を賄える所得を超えてから右上がりになるのが自然ではないでしょうか。それとも基礎消費があるということは、現実のデータで実証されていることなのでしょうか?
(回答)
 消費関数が基礎消費を賄える所得を超えてから右上がりになると考えることは、考え方としては良い考え方だと思いますが、基礎消費の定義を変更してしまうことになりますし、実際にはそのような考え方をしていません。
 基礎消費の解釈に関しては、確かに、授業内に示したように「所得ゼロでも最低限必要な消費」と解釈できるのですが、実際の消費関数を推計する際は、ただの縦軸切片として基礎消費の値が得られるだけで、あまり深くは考察しませんし、考察する必要もないと考えます。(そもそも、Y=0(GDPの値がゼロ)になることなんてないからです)
 実際の消費関数の推計に関しては、手書きの資料をご準備しましたので、参考にしてみてください。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/09/note20210913.pdf

・ 均衡国民所得の定義は複数ありますか?ある本で「均衡国民所得とは、各期の国民所得が等しくなるときの国民所得」とし、その本ではそれを根拠にYt=Yt-1=Yt-2という式を用いていました。
(回答)
 「均衡」には2つの意味があります。
 まず、ある市場(例:財市場、貨幣市場、りんごの市場など)における需要量と供給量が一致しているという意味での「均衡」です。
 他には、時間を通じて、変数の値が一定の値をとる(各期の変数の値が一致する)という意味での「均衡」です。後者の均衡は「定常」とも言われます(例えば、「定常状態における国民所得」といったように使います)。
 その本では、後者の意味での均衡を使っているようですね。後者の意味で「均衡」という言葉の使い方をすることもあるんだ、といった理解でよいかと思います。

第11講 45度線分析(2)

 45度線分析を用いて、「財政政策」の効果について考えていきます。

・ 授業動画を見る(計38分51秒)

1.租税乗数と政府支出乗数19分34秒
2.財政政策6分24秒
3.貯蓄のパラドックス12分53秒

・ 授業資料のダウンロード

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問題集問題解答

・ みんなの質問

クリックして表示(質問6件あり)
・ スライド9の例題では、租税Tのみが変化しましたが、例えば租税Tと投資Iなど複数が変化する場合も、別解のように乗数を使った解法はできますか?
(回答)
 できます。租税Tと投資Iが同時に変化する場合は、
  ΔY = (-c)/(1-c)*ΔT + 1/(1-c)*ΔI
を計算すればいいのです。この式には、租税乗数と投資乗数の両方が含まれていることがわかりますね。

・ 貯蓄のパラドックスの説明で「Y = C + I + G」ではなく「Y = C + I」を用いた理由は何でしょうか?
(回答)
 貯蓄のパラドックスの説明では、財市場均衡条件が Y = C + I になっていますが、これは「政府支出Gがない」、つまり「政府がいない」ことを前提として考えていることになります。「政府がいない世界なんてあるの?」と思うかもしれませんが、政府がいないと仮定して考えてみよう、ということに過ぎないのです。
 では、どうしていきなり政府の存在を消したかというと、 財市場均衡条件を Y = C + I として、この式を変形すると、 S = I つまり、「貯蓄S = 投資I」の式が、きれいに出てきてくれるという事情があるからです。
 第12講の動画で説明していますが、財市場均衡条件を Y = C + I + G として考えた場合、この式を変形すると S + T = I + G になります。このように財市場均衡条件に政府支出Gが含まれると、「貯蓄S = 投資I」という式が出てきません。貯蓄のパラドックスのエッセンスを理解するためには、 財市場均衡条件から政府支出Gを除いて、「貯蓄S = 投資I」という式を用いた方が分かりやすいので、Y = C + I を使っているのです。

・ 投資を一定とするなどの単純化したモデルで、貯蓄のパラドックスが起きていることは、ケインズ経済学のレトリックのように思えてなりません。国民所得Yが消費Cと投資Iの足し算で表されているので、消費Cが減って国民所得Yが減るのは当たり前だと思います。
(回答)
 ご指摘の通り、単純なモデルですので限界貯蓄性向sが上昇して、貯蓄が一切増えないとの結論が導かれています。
 現実には貯蓄が多少増えるかもしれません。ただし、sの上昇によって消費の減少が起こり、国民所得は低下傾向になるはずですので、期待する程に貯蓄は増えないとは言えそうです。そして、そう判断できることが重要なのだろうと思います。
 (後半に関して)そうですね。sが上がればCが下がり、Iは定数と仮定していますので、CとIの足し算で決まる国民所得が減るのは当然ですね。

・ 所得税率tを含むモデルの場合、政府支出乗数を求めようとすると、ΔY=1/(1-c)(1-t)*ΔGが得られるのですが、なぜ分母に(1-t)をかけることになるのでしょうか?
(回答)
 少し式が間違っていまして、
  ΔY=1/(1-c(1-t))*ΔG … ①
が正しいです。
 なぜこの式が導かれるかについては、問題集の第11講p.13に記載していますので、よろしければまずはそちらをご覧ください。そちらを読んでいただくと、単に式変形をしていけば①式が得られていることがわかるわけですが、ここではもう少し奥深い内容を書かせていただきます。
(以下は興味があればお読みください。少し難しいですが、この解釈は深い理解のため大切だと思います)
 所得税率(限界租税性向)tがない場合は、
  ΔY=1/(1-c)*ΔG … ②
になりますね。 実は、②式は次のような無限に続く足し算と等しくなっています。(第0講で勉強した無限等比級数です)
  ΔY=ΔG+c*ΔG+c^2*ΔG+c^3*ΔG+…=1/(1-c)*ΔG … ③
 ③式において、ΔG=1、c=0.8とすると、
  ΔY=1+0.8*1+0.8^2*1+0.8^3*1+…=1+0.8+0.64+0.512+…
 この式をどこかで見たことはないでしょうか?第10講の動画のスライド20~22あたりで説明した、「消費が消費を呼ぶ」という乗数効果に関する内容ですね。
 つまり、「所得が1増えたら、その8割が使われて誰かの所得になり、そのまた8割が使われて誰かの所得になり、そのまた8割が…」というストーリーになる訳です。
 では、所得税率tを導入するとどうなるかというと、③式に対応させると、
  ΔY=ΔG+c(1-t)*ΔG+(c(1-t))^2*ΔG+(c(1-t))^3*ΔG+…=1/(1-c(1-t))*ΔG … ④
となります。(②式中のcが、c(1-t)に入れ替わったのが①式ということです)
 ④式において、例えば、ΔG=1、c=0.8、t=0.25とすると、1-t=0.75より、
  ΔY=1+0.8*0.75*1+(0.8*0.75)^2*1+(0.8*0.75)^3*1+… … ⑤
となります。この式の意味を説明していきましょう。
 所得税率tとは、租税関数
  T=tY+T0
という式から、tの意味は「所得が1増えたときに、tだけ税を払わないといけない」ということです。
 そうすると、t=0.25であれば、「所得が1増えたときに、0.25だけ税を払わないといけない」ということになるので、このことから、1-t(=0.75)の意味は「所得が1増えたときに、0.25だけ税を払わないといけないので、実質的には所得は0.75(75%分)しか増えていない」ということになります。
 これを踏まえると、⑤式は「増えた所得0.8のうち、25%は税として払うので、75%分である0.8*0.75しか所得は増えず、そのまた、8割が使われるけれど、75%分である(0.8*0.75)*0.8*0.75しか所得は増えず、そのまた、8割が使われるけれど、75%分である(0.8*0.75)^2*0.8*0.75しか所得は増えず…」
というループになっているのです。
 これこそが、②式の分母のcに(1-t)を掛けることで①式が得られている意味になるのです。

・ Y=C+Iを変形してS=Iになるという理屈は理解できますが、直感的に理解できません。つまり、均衡国民所得では国民の貯金は全て企業の投資に回されているという前提が置かれているということでしょうか?言い換えると、銀行が貸し渋りをしたり、企業が投資をせずに内部留保を貯め込んでして、国民の貯金が企業の投資に回されていない場合には、均衡国民所得は実現しないということでしょうか?
(回答)
> 均衡国民所得では国民の貯金は全て企業の投資に回されているという前提が置かれているということでしょうか?
 S=Iという式の感覚としては、国民の貯金が企業の投資に回っているようなイメージではあるのですが、後で説明するように、前提としては有効需要の原理を考えていることが大切です。(貯蓄はフローの概念なのですが、貯金と表現するとストックの印象を受けてしまうことも気にはなりますが、ここでは不問としておきます)
> 銀行が貸し渋りをしたり、企業が投資をせずに内部留保を貯め込んでして、国民の貯金が企業の投資に回されていない場合には、均衡国民所得は実現しないということでしょうか?
 国民の貯金の「一部分のみ」しか企業の投資に回されていない場合であっても、均衡国民所得は実現する(と考えます)。
 政府や海外がない、Y=C+Iという世界を考えた場合に、
  Y:総供給(=Y^S)。要は「財の供給」
  C+I:総需要(=Y^D)。要は「財の需要」
となります。
 そして、有効需要の原理を考えると、C+I=100(つまり、需要=100)であれば、需要に引っ張られてY=100(つまり、供給=100)になるという話でした。
 ここで、銀行が貸し渋りをしたり、企業が投資に積極的でないとするとIの値が小さくなります。
 すると、Cの値が仮に変わらないとしてもC+Iの値は小さくなります*。そうすれば、有効需要の原理より、C+Iの値と等しくなるようにYの値が決まりますので、Yの値も小さくなり、S=Y-Cで計算される貯蓄Sの値も小さくなります。
*:Cの値が変わらないとしましたが、Cの値はYの値に依存します。結果的にYの値は小さくなりますので、本当はCの値も小さくなるはずです。
 つまり、有効需要の原理によって、財の需要と供給は等しくなると(理論上は)考えますので、銀行が貸し渋りをしようが、企業が投資意欲を減少させようが、均衡国民所得は実現すると考えるのです。

・ しばらく前に、政府が「老後2千万問題」の報告書を発表して、老後に備えての貯蓄について奨励するような動き(限界貯蓄性向の向上)があったかと思います。これは、経済学的には正しいとは言えない動きだったのでしょうか?どう整理したらいいのでしょうか?
(回答)
 「老後2千万円問題」に関して、2千万円という金額は経済学を用いて算出された訳ではなく、次のような算数から得られた数値です。
 夫が65歳以上、妻が60以上である二人世帯を考えます(2人とも無職とします)。
 このような高齢夫婦無職世帯は、
  平均的な月の収入:20万9,198円
  平均的な月の支出:26万3,718円
であるので、これらの差額である5万4,520円が毎月不足することになります。
 こういった世帯にあと30年の人生があるとすれば、
  5万4,520円×12か月×30年=1,962万7,200円≒2,000万円
の金額が不足するだろうという算数の計算になります。
 また、この「老後2千万円問題」は、金融庁の次の報告書が基になっています。
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf
 この報告書のp.10とp.21が上の計算式の根拠になっています。(PDFのページ番号ではなく、資料の下部に記載されているページ番号です)
 つまり、この2,000万円という数字は、45度線分析やIS-LM分析などの経済学を用いたシミュレーション結果ではないのです。(ただし、上記の資料の4ページ目を見ると、日本の名立たる経済学者の方々が参加されていることも指摘しておきます)
 そのため、おっしゃるように限界貯蓄性向の上昇を通じて、貯蓄のパラドックスが起きる可能性は十分考えられます。本来であれば、そういったことも考慮できる経済モデルを用いて分析する必要があるかと思います。
 そのため、2,000万円という試算は経済学的には正しくないですが、あくまで概算であるという認識で良いのではないでしょうか。
 ところで注意なのですが、貯蓄のパラドックの「貯蓄」とは年間に預金残高がいくら増えるのかという意味での「貯蓄」になります(経済学では「フロー」の概念といいます)。つまり、2021年に預金残高が100万円から120万円に増えれば、2021年の貯蓄S=20万円となります。それに対し、2,000万円という金額は預金残高のことを指しますので「ストック」の概念になります。

第12講 IS-LM分析(1)

 45度線分析から「IS曲線」を求めることで、「IS-LM分析」の準備をしていきます。

・ 授業動画を見る(計31分01秒)

1.投資関数7分31秒
2.IS曲線の導出15分46秒
3.IS曲線の右シフト7分44秒

・ 授業資料のダウンロード

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・ みんなの質問

クリックして表示(質問8件あり)
・ 授業スライド12で投資関数がI=-r+5になってるのは何故ですか?
(回答)
 式は、単なる数値例だとお考えください。
 エッセンスは、投資量は利子率と負の相関関係があるということですので、その関係を満たすように式の例を作ったに過ぎません。

・ 授業スライド7で、Y=C+I+G の消費関数Cの中にTが入っているはずであるのに、なぜ、Y=C+I+G+T-Tとするのでしょうか?
(回答)
 簡単にお答えしてしまうと、式に0(=T-T)を足しても何ら問題なく、後の議論の都合上、0(=T-T)を足しているのです。
 これでご納得いただけない場合のために、もう少し詳しく記載してみたいと思います。
 確かに、ここで考えている消費関数は
  C=c(Y-T)+C0
ですので、式の中にTが入っています。また、この消費関数が意味することは、可処分所得(Y-T)が増加すれば、消費Cも増加するということです。つまり、可処分所得(Y-T)と消費Cの関係が示されているわけです。
 これは「消費理論」と呼ばれる消費Cがどのように決定されるかという議論であり、Y=C+I+Gという関係式とは直接的には関係がありません。
 もし、国民の資産額A(Asset)が増加したときにのみ消費は増加するという消費理論があったとすれば、消費関数は、
  C=cA+C0
になります。
 この場合は、
  Y=C+I+G=cA+C0+I+G
になりますね。
 このことから分かるように、
  Y=C+I+G
のCの式の中にTが入っているからといって、
  Y=C+I+G+T-T
と変形してはいけないという理由にはならないのです。

・ 政府があるモデルで、T-Tになる理由をもう少し詳しく教えて下さい。
(回答)[直前の質問、回答とほぼ同様の内容です]
 「政府があるモデルで、財市場均衡条件(Y=C+I+G)からSとIの関係式を導きたい」というのが目標になります。
 貯蓄Sの定義は、政府があるモデルでは、
  S=Y-C-T
になりますので、Y-C-T(=S)とIの関係を知りたいのです。
 その関係式を導くために、T-Tを上手く式に加えることで、Y-C-T(=S)とIの関係式、つまり、
  (Y-C-T)+T=I+G
  S+T=I+G
を導いた、ということなのです。

・ IS曲線の導出に入った際、Y^Dが突然現れたところでついていけなくなりました。なぜY^D=C+l+Gが現れたのでしょうか?
(回答)
 授業スライド9でグラフ内に
  Y^D=C+I+G …①
が登場した箇所に関するご質問かと思います。
 このスライドに登場するグラフは45度線分析のグラフですので、45度線分析を説明をした第9講と第10講の動画は理解されたことを前提として書かせてください。
 IS曲線の導出において、①式を登場させずに、財市場均衡条件である
  Y=C+I+G …②
だけでIS曲線の導出を説明することはできます。
 次の通りです。
Step1 r↓
Step2 Y=C+I↑+G
Step3 Y↑=C+I↑+G(ここからは矢印を追加していきます)
Step4 Y↑=C↑+I↑+G
Step5 Y↑↑=C↑+I↑+G
Step6 Y↑↑=C↑↑+I↑+G
Step7 Y↑↑↑=C↑↑+I↑+G
Step8 (以下繰り返し)
Step9 結局、Yは上昇する(Y↑)
 これより、Step1とStep9のみを抜き出すと、
  r↓ ⇒ Y↑
が得られて、右下がりのIS曲線が描けたことになるのです。
 ところで、②式というのは財市場均衡条件ですので、授業スライド9の45度線分析のグラフでは、Y^SとY^Dの交点を指していることになります。その交点のみについて議論するのが「②式を使う」ということになります。
 それに対して、①式やY^S=Y(45度線)も記載して考えた場合は、授業スライド9の45度線分析のグラフそのものを用いて議論しているということになります。
 私たちは第9講から第11講にかけて45度線分析を丁寧に学んできましたので、交点のみの情報(②式)ではなく、きちんとグラフ全体の情報(①式)からIS曲線の導出をしたいがために①式を用いているのです。

・ 動画では、簡単化のためかYへの効果についてGとTを同じとして扱っています。しかし、Gの増大とTの削減の効果は同じではないと考えます。なぜなら、Gは政府支出として需要そのものですが、Tは消費を制約するのでTの削減(減税)は限界消費性向cだけYの増加をもたらすからです。
(回答)
 理由も含めて考え方は合っています。
 私の作図では、G↑もT↓もIS曲線の右シフト要因だということを示しているだけですので、同じシフト幅であることまでは意図していません。ちなみに、Gが1単位増加したときのIS曲線の右シフト幅は1/(1-c)で、Tが1単位減少したときのIS曲線の右シフト幅はc/(1-c)になります(つまり、政府支出乗数と租税乗数の違いになるということです)。

・ 「Gが1単位増加したときのIS曲線の右シフト幅は1/(1-c)で、Tが1単位減少したときのIS曲線の右シフト幅はc/(1-c)になる」というところでふと気が付いたのですが、Tを増税と考えると1/(1-c)-c/(1-c)=1になるので増税をしてから財政支出をしても政府支出乗数は働かないということになりますよね?
(回答)
 大変良い点に気付かれています。
 実はその論点はすでに存在しています。つまり、1単位の政府支出をする際に、その財源を1単位の増税によってまかなえばどうなるのかといったことです。
 すでに計算されたように、
  1/(1-c)-c/(1-c)=1
となり、
「1単位の政府支出をする際に、その財源を1単位の増税によってまかなえば、GDPは1単位増える」
という結論が得られます。
 この論点は「均衡予算乗数」という内容に繋がってくるのですが、詳細は、問題集の第11講p.11からをご覧ください。

・ 減税が必ずしも消費に向かわないモデルも考えられるのではないかと思います。例えば、(増)減税の消費弾力性のような考え方を国民所得決定モデルに導入したモデルなど考えらないでしょうか?
(回答)
 まさに「リカードの等価定理」に通じる発想になるかと思います。
 リカードの等価定理を簡単に説明させていただくと、政府が減税をしたとしても、国民は「将来、どうせ増税するんでしょ…」と思うことで、消費を増やさないことを言います。このようなストーリーを考えることで、確かに「減税が消費に影響しにくい」という状況を考えることができます。
 ただし、このようなストーリーでは、国民は将来のことを見越して貯蓄をするといった行動をとっていることになります。すると、この行動を説明するための行動原理について考える必要性が出てきます。それが「異時点間消費」という論点に繋がるのです。(ちなみに、「減税が消費に影響しにくい」ということは、消費の(増)減税弾力性という言葉を用いた方がより適切かとは思いますが、このような用語を聞いたことはありません)

・ この授業は生産した物が全て売れると言う仮想世界の話ですよね?
(回答)
 いえいえ、それは勘違いをされているのではないでしょうか。
 IS-LM分析では需要の大きさに応じて、生産量が調整されると考えています。需要がなければ、売れ残りが生じてしまいますので、生産した物が全て売れると考えてしまうと本質を見誤ってしまいます。
(ちなみに、古典派という学派が考える経済学では、「セイの法則」といって生産した財・サービスが価格の変動を通じてすべて売れると考えます)

第13講 貨幣と債券

 「貨幣」と「債券」の特徴を学び、「貨幣市場」に対する理解を深めていきます。

・ 授業動画を見る(計53分57秒)

1.貨幣と債券17分27秒
2.貨幣需要15分46秒
3.貨幣供給8分23秒
4.貨幣市場の均衡12分21秒

・ 授業資料のダウンロード

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問題集問題解答

・ みんなの質問

クリックして表示(質問17件あり)
・ 講義スライド10で国債価格が90万円になったのはなぜでしょうか?そして、元々の100万円の国債はどうなってしまったのでしょうか?
(回答)
 ここでは、国債価格が下がる原因については無視していて、「仮に国債価格が90万円になったとしたら…」というように仮の話をしているとお考え下さい。
 100万円の国債はどうなったかということですが、価格が変化して2012年末に90万円になったということですので、100万円の国債が90万円の国債に変わったということになります。

・ 利子率の概念について、動画ではその時々において利子率が債券利率であったり、預金利率であったり、融資利率であったりと使い分けていますが、「利子率r」とはどういう理解が正しいのでしょうか?
(回答)
 私も経済学を学び始めたとき、利子率rとは何だろうかと随分悩んだ記憶があります。
 学び始めとしては、世の中に存在する様々な種類の金利の平均的な値を「利子率r」と捉え、経済学で利子率rが登場したら、その都度で最も都合よく理解できる金利の種類を思い浮かべることをおすすめします。(通常、経済学の授業でも、利子率rが登場する度にその都度、説明するのに都合のいい金利を例に挙げることが多いです)
 ただ、より正確には、利子率rを債券の金利として統一的に理解する必要があります。本来、IS-LMモデルは経済を極めて単純化したモデルですので、何種類もの金利を扱えるような複雑なモデルではなく、「利子率rは債券の金利」なのです。(ケインズは、債券と貨幣との間の相対価格が利子率と説明していますが、要するに債券の金利に相当するものが利子率rです)
 問題集第12講<補足1>「利子率rとは」に利子率rについてより詳しい内容を記載しています。

・ 利子率rとは「債券」の利子率を指している、と認識していましたが、他の動画を見ていると銀行の借入利率や預金利息率のことを指していると思われるものがあります。例えば、「rが下がれば投資が増える」という説明におけるrは銀行借入利率のことと思われます。結局、rというのは資産(債券と貨幣)すべての利率という理解でよろしいでしょうか?
(回答)
 (直前の回答と重なるので)端的にお答えするとすれば、利子率rとは「債券の金利」です。

・ 利子率rの定義について、この授業では債券の利回りとしていますが、利回り、表面利子率、市場利子率の関係はどのようになっているのでしょうか。全て連動しているものでしょうか?
(回答)
 この授業で扱っているような基本的なマクロ経済学のモデルでは、既発債であるコンソル債*にのみ利子がつくと考えています。*:既発債やコンソル債については、問題集第13講のp.7をご覧ください。
 そのため、rは債券の利回りでもあり、市場利子率でもあるのです。つまり、債券の利回り=市場利子率となります。
 それに対して、表面利子率(表面利率)は、モデル上、外生的に値を与える(何らかの定数として値を決めてしまう)ことになります。そのため、債券の利回り(や市場利子率)と表面利子率の連動は通常考えません。

・ rを市場利子率とした場合、rが下がることによって、市場利子率より債券の表面利子率が高くなり債券の魅力が相対的に上がる→債券価格が上がる→結果、債券の利回りが下がる→債券の需要が減る、と考えても同じでしょうか?
(回答)
 ご提示いただいたような考え方で、債券価格と(市場)利子率rが負の相関関係にあることを説明しているマクロ経済学の教科書もあります。(例えば、石川秀樹(2019)『速習!マクロ経済学 2nd edition』中央経済社、pp.145-147)
 ただし、この考え方は債券の利回りと市場利子率を異なるものとして考える方法になります。(むしろ、現実経済ではこの考え方が正しいでしょう)
 しかし、モデル上は債券の利回りと市場利子率が全く同じものになります。債券の利回り=市場利子率を前提として、この考え方をしてみると論理的におかしなことになりますので、マクロ経済学を学ぶ上ではやはり授業で説明した考え方をした方が良いかと思います。
 まとめると、現実経済を見る上では「債券の利回り」と「市場利子率」を区別する必要がありますが、経済学の理論モデル上ではこれらを同じものとして扱う必要があるということになります。

・国債価格が上がると利子率が下がる、ということについて質問があります。参照している本(石川秀樹(2019)『速習!マクロ経済学 2nd edition』中央経済社、pp.145-147)の説明と授業の説明では、結果は同じだけど説明が異なるように感じます。この授業では、ある価格を想定してそのときの利子率を計算するというものでしたが、本では、まず確定利子率(表面利率)というのが確定していて、市場利子率と比較してその利子率が低ければ債券の魅力が低く価格も低くなり、高ければ債券の魅力が高く価格も高くなる、という説明でした。「利子率と債券価格の上下が逆」という結論は同じですが、どうやら「利子率」という概念が違っているようにみえます。この2通りの説明の関係はどうなっているのでしょうか?
(回答)
 石川先生の本(2nd)のp.146で書かれている説明は、本にも書かれているようにあくまで「直観的な説明」なのです。そのため、マクロ経済学のモデルに対する正確な説明になっていません。私の授業や1つ上の質問に対する回答で提示している説明の方がより正しい説明になります。
 石川先生の説明の仕方では、利子率が2種類あるような印象を受けてしまいます。2種類とは「市場利子率」と「(債券価格から計算される)債券の利回り」です。
 しかし、ここで学習しているマクロ経済学のモデルでは「市場利子率=債券の利回り」であり、利子率は1種類です。なぜなら、(動画内では詳しく説明していませんが)モデル上は償還期限が無期限である債券(コンソル債といいます)1種類のみしか考えていません。つまり、1種類の債券しか存在しないので、その債券の利回りと市場利子率が一致するのです。
 それに対して、石川先生の説明の仕方では、債券の利回りが償還期限等によって複数種類存在していることを前提にしているように見受けられます(この前提は現実的ではあるのですが、モデルに忠実ではありません)。債券の利回りが複数種類存在するとはどういうことかと言うと、例えば、10年物国債の利回り、15年物国債の利回り、20年物国債の利回り、さらに発行した時期によっても債券の利回りは異なってくるものなのです。そういった利回りの平均的な水準が市場利子率と考えられるわけですが、石川先生はその市場利子率と、ある特定の10年物国債を比較した議論になっています。
 ただ、繰り返しになりますが、モデル上は償還期限が無期限である債券(コンソル債)1種類を考えており、(償還期限が無期限ですので)発行されたタイミングも債券の利回りには影響がありません。このようなコンソル債を考えると、複数種類の債券の利回りを考える必要がなくなり、「市場利子率=債券の利回り」となってくれて、理論上、議論がしやすくなるのです。

・ 利子率r↓→貨幣需要L↑の関係について、この授業では国債(債券)からの利息を例にご説明頂いていますが、これは、例えば「銀行からお金を借りるときの利率r↓で、お金を借りやすくなるので貨幣需要L↑」と同意だと捉えても宜しいのでしょうか?
(回答)
 私がマクロ経済学を学び始めた頃、
「銀行からお金を借りるときの利率r↓で、お金を借りやすくなるので貨幣需要L↑」…(*)
私もこの内容が正しいと思い込んでいました。(やっかいなことに、このように考えても後の議論にさほど支障が出てこないので、なおさら正しいと思い込んでしまいます)
 まず、利子率rが下がって貨幣需要Lが増加する理由は、「投機的」動機に基づく貨幣需要L2が増えるからでした。(*)の内容は債券に関する「投機」の話とは関係がないのです。
 また、そもそもIS-LM分析には「家計がお金を借りる」というストーリー自体が馴染みません。
 IS-LM分析では、企業が投資のためにお金を需要し、家計がそのお金を供給するという考え方をします(貸付資金市場の考え方)。現実には、家計が住宅ローンを借りて家を購入しますが(これは家計による「投資」です)、IS-LM分析では企業が投資すると考えるのです(ちなみに、政府は公共投資をします)。

・ 実質貨幣供給に利子率は関係ないという説明がありましたが、利子率が下がったら、みんながお金を借りやすくなるので、マネーストックが増えるのではないでしょうか?そのため、貨幣供給と利子率が関係あるように思えるのですが、この考え方のどこが間違っているでしょうか?
(回答)
 とても良い質問です。
 大半の教科書を読んでも、「マネーストックの量は中央銀行が操作できると仮定して、実質貨幣供給量と利子率は関係がないとする」と書かれています。
 しかし、本当は「利子率が下がると、マネーストックが変化する」はずなのです。ただ、「利子率が下がると、マネーストックは減少する」と考えた方がより正しいです。(つまり、実質貨幣供給曲線は(若干)右上がりです)
 授業の範囲外の内容にも触れてしまいますので、適宜ご自身で調べて補完してください。
 まず、マネーストックとは、
  マネーストック=現金+預金 …①
ですが、利子率が下がることで、人々が預金しにくくなり、現金の保有がより多くなります。(お金を借りやすくなり、現金の保有がより多くなると考えても結構です)
 このように、利子率が下がることで、①式中の現金の量が増え、預金の量が減る傾向が生じます。
 また、預金とは信用創造というメカニズムにおいて重要な役割を果たしており、預金の量が減ると信用創造のメカニズムの働きが弱くなり、マネーストック自体が減ってしまうことが考えられます。(現金預金比率が上昇することにより、貨幣乗数が低下してしまうのです)
 丁寧な教科書では、現金預金比率は一定と仮定すると書いていたりします。しかし、上記で説明したように現金預金比率は利子率の変化の影響を受けるはずですので、本当は実質貨幣供給量と利子率は関係していると考えるべきなのです。

・ 色々な教科書を見ていると、L=MとL=M/Pがあると思うのですが、これらの違いは何でしょうか?また、何故、貨幣供給Mのみ物価Pで割るのでしょうか?
(回答)
 とても良い質問です。
 この論点に関しては、少し話が込み入りますのできちんと説明せずに上手く切り抜けようとする教科書が大半です(かく言うこの動画もその立場をとっていますので恐縮ではあるのですが…)。せっかくご質問いただきましたので、ここで説明させていただきたいと思います。
 まず、実質貨幣需要Lではなく、名目貨幣需要というものを考えてみます。
 名目貨幣需要は金額の単位(円)ですが、それに対して、実質貨幣需要Lは貨幣需要を財の個数でカウントした単位(個)になります。また、財の平均的な価格が物価Pですから、
  名目貨幣需要=P×実質貨幣需要L …①
という式が成立することになります。
 次に、名目貨幣供給Mを用いて、貨幣市場均衡条件を書くと、
  名目貨幣供給M=名目貨幣需要 …②
となります。(動画内でお示しした貨幣市場均衡条件は両辺が「実質」でしたが、②式は両辺が「名目」であることにご注意ください)
 ②式に①式を代入して、式変形していくと、
  名目貨幣供給M=P×実質貨幣需要L
  (名目貨幣供給M)/P=実質貨幣需要L
  実質貨幣供給M/P=実質貨幣需要L …③
となり、動画内で説明した貨幣市場均衡条件が得られるのです。
 では、ここで次のような反論が来ることを考えます。
「②式の両辺をPで割り、次の式のようにすれば、両辺にPが残ったままになるのではないか?」
  (名目貨幣供給M)/P=名目貨幣需要/P …④
 確かに、この④式は正しい式で、むしろ、この④式を変形した先に③式があります。
 ポイントは、実質貨幣需要L自体が(実質)国民所得Yと利子率rの影響を受けるということにあります(関数の考え方を使えば、
   L=L(Y, r)
と書けます。そのため、名目貨幣需要をl(Lの小文字)としたときに、貨幣市場均衡条件を、
  M=l(Y, r)
と書くことや、両辺をPで割った
  M/P=l(Y, r)/P
と書くことはできないのです。l(Y, r)とは書けないからです。書くとすればl(Y, r)ではなくl(Y, r, P)になります)
 そういった事情から、貨幣市場均衡条件は両辺を「実質」とした③式
  実質貨幣供給M/P=実質貨幣需要L
で書くことになるのです。
 このように少し込み入った話になりますので、この辺りの説明は割愛してしまうことが多いのです。
 しかも、IS-LM分析では物価Pを固定と考えるのが通常ですから、あまり実質と名目の違いに気を配る必要がないことも、なおさらこの点に関する詳しい説明を避けたくなる要因かと思います。

・ 「利子率が下がると債券の価格が上がり、将来債券価格が下がることを見越して貨幣の需要が上がる」という箇所ですが、貨幣を債券の代替財と考えて、債券の価格が上がれば代替財である貨幣の相対価格が下がり、貨幣の需要が増える…と考えたのですが、このような説明で問題がありますでしょうか?
(回答)
 その説明でも正しいと判断して良いでしょう。
 通常、マクロ経済学の教科書では、私が授業で説明した
「利子率が下がると債券の価格が上がり、将来債券価格が下がることを見越して貨幣の需要が上がる」
というストーリーの他に、次のようなストーリーで説明されることもあります。
「利子率は貨幣で保有することの機会費用であるから、その機会費用(利子率)が下がれば、貨幣需要が増加する」
これは要するに、資産を貨幣で持っていても利子はつかないが、資産を債券で持つことで利子がつくので、資産を貨幣で持っていることは、利子分の損をしている、言い換えると、(機会)費用を支払っているということになります。(機会費用については、いずれ他の動画で説明する予定です)
 この考え方は、利子率rを、資産を貨幣として保有することの価格と考えているということです。そのため、利子率rが下がることで、資産を貨幣として保有することの価格が下がるので、貨幣需要が増加することになります。
 これはお書きいただいた説明の言い換えになっていると考えて良いでしょう。

・ 金融緩和政策によって増えるのはハイパワードマネー(マネタリーベース)になるのではないかと思いますが、なぜマネーストックが増えるように表現しているのでしょうか?
(回答)
 ご指摘の通り、金融政策で直接的に動かせるのはハイパワードマネーであり、マネーストックは間接的に動かすことになります。この授業は入門レベルのためマネタリーベースに触れない方針としました。マネタリーベースを説明すると、準備預金制度、信用創造、貨幣乗数の内容を説明する必要が出てきます。そうするとLM曲線を導出するのに時間がかかってしまいますので、ハイパワードマネーの話はまた別の動画で解説する予定です。

・ 日銀の公定歩合操作は、市場利子率を操作して貨幣供給量をコントロールする政策だと理解しているのですが、なぜ貨幣供給曲線は垂直なのでしょうか?貨幣供給曲線は利子率の減少関数になるのかなと理解していました。また、日銀の公定歩合は債券市場の利子率とは全く別物で、連動しないのでしょうか?
(回答)
 まず、公定歩合(基準割引率および基準貸付利率)と市場利子率は別物です。(アナウンスメント効果といって、公定歩合を上昇させると、市場利子率を上昇傾向にもっていく効果はありますが、IS-LMモデルでは公定歩合と市場利子率は別物と考えるのが通常です)
 そのため、公定歩合の変更はハイパワード・マネーの量自体を変更する政策だと考えられると良いでしょう。
 例えば、公定歩合を引き下げると、中央銀行貸出が増えて、ハイパワード・マネーが増加します(ハイパワード・マネーについては、この動画では登場していませんが、ハイパワード・マネーの増加はマネーストックの増加になりますので、公定歩合の引き下げは貨幣供給量を増加させる(LM曲線を右シフトさせる)と考えれば良いことになります)。ちなみに、公開市場操作もハイパワード・マネーの量自体を変更する政策です。
> なぜ貨幣供給曲線は垂直なのでしょうか?貨幣供給曲線は利子率の減少関数になるのかなと理解していました。
 公定歩合と市場利子率は異なりますので、貨幣供給量と市場利子率は無関係となり、貨幣供給曲線は垂直となります。
 もし仮に、公定歩合と市場利子率を同じものと考えて、中央銀行が金利自体を操作すると考えた場合であっても、貨幣供給曲線は利子率の減少関数にはならないかと思います。なぜなら、利子率の減少関数である貨幣供給曲線と、同じく利子率の減少関数である貨幣需要曲線の交点で市場利子率が決定されると考えると、「中央銀行が公定歩合(市場利子率)を操作できる」という内容と矛盾することにはならないでしょうか。
> 日銀の公定歩合は債券市場の利子率とは全く別物で、連動しないのでしょうか?
 上で理由を説明した通りですが、IS-LMモデルで考えようとするとその通りです。ただ、アナウンスメント効果があることには注意が必要です。
 ところで、問題集第13講のp.29でも記載していますが、現在の日本では公定歩合操作は行われていないことに注意してください。

・ rが下がる → 投資Iが増える → 均衡国民所得Yが増える → L1が増えるという関係、つまりr↓によって間接的に右下がりの貨幣需要曲線Lの右シフトも起こるという関係は成り立ちますか?
(回答)
 例えば、ミクロ経済学の最初(第1講)で学ぶ、需要曲線と供給曲線が描かれてあるグラフを見たとき、「まず最初に、Pが下がったとしましょう」と言われたらどう思うでしょうか?
 恐らく、「需要曲線と供給曲線のどちらかがシフトしてPが下がったんだろうな」と思うのではないでしょうか。
 今回の質問も同じことで、最初に「rが下がる」と書いていますが、rが下がるには貨幣需要曲線Lか実質貨幣供給曲線Msのどちらかが動いたことをスタートに持ってくる必要があります。
 ところで、IS曲線や貨幣需要曲線Lを導出する際には「rが下がったら…」というストーリーを仮に考えますが、それはグラフを導出する場合には考えても良いことです。
 しかし、ご質問はすでにIS-LM分析という分析の話に入っているので、「rが下がったら…」というストーリーを考えることができないのです。
(より正確な説明すると、rやYは内生変数であり、IS-LM分析を用いて分析をする際に、そういった「内生変数の値が変化したら…」ということから考え始めてはいけないのです。IS-LM分析をする際には、「G、T、Mといった外生変数の値が変化したら…」から考え始めないといけません)

・ 途中で国債を購入する際に、誰かの交渉によって国債価格が決まるのでしょうか?また、利子は国債を発行する時点で決まっていると理解してよろしいでしょうか。
(回答)
 国債価格は基本的には入札で決まります。銀行、証券、生命保険会社などの金融機関が参加するオークションといったイメージになります。個人が買うことのできる個人向け国債は、そのオークションによって購入した国債に対して、金融機関が独自に価格を設定して販売することになります。経済理論としては、国債に対する需要と供給で国債価格が決まると考えます。
 また、利子に関しては、国債の種類にもよるのですが、国債を発行する時点で利子が決まっている国債を「固定利付国債」といい、経済情勢によって利子が変動する国債を「変動利付国債」といいます。 通常、基本的な経済学で想定される国債は固定利付国債になります。

・ 元本100万円、国債価格が90万円や80万円の例がありましたが、元本と国債価格には何か関係がありますでしょうか?
(回答)
 経済学では、「コンソル債」といって永久に元本が返ってこない債券を仮定することが多いです(数学的な取り扱いが簡単になるからです)。国債にこのコンソル債を仮定すれば元本は永久に返ってきませんので、元本と国債価格に関係はないことになります。
 ただし、現実には元本は返ってきますので、返ってくる元本が大きければ大きいほど国債価格は高くなります。
 したがって、経済理論では元本と国債価格に関係はないが、現実には元本が高ければ高いほど国債価格は高くなるということになります。
 コンソル債や、元本(額面)と国債価格の関係については、問題集第13講のp.7をご覧ください。

・ 利子率rが高いと債券が人気であることは分かるが、「貨幣」市場の均衡点を境に「債券」の人気と不人気が入れ替わるのかが分かりません。
(回答)
 まず授業では、超過需要の場合に「人気」、超過供給の場合に「不人気」と表現しています。(人気や不人気という用語は経済学の専門用語ではないため、あくまで内容を噛み砕いて伝える際の補助として使用しているとご理解ください)
 その上で次のような例え話を考えてみてください。
 (金融)資産は貨幣と債券の2種類からなりますが、いま仮に経済全体に100万円分の(金融)資産があったとします。(つまり、貨幣と債券(の供給)を合計すると100万円分ということです)
 ここで、貨幣の供給は80万円分であり、人々は80万円分を貨幣としてもちたい(貨幣需要=80万円)と思っていたとします。この場合、貨幣市場は均衡しています(貨幣需要=貨幣供給=80万円)。
それに対して、債券市場は分析をするまでもなく、債券の供給=100-80=20万円、債券の需要=100-80=20万円であり、債券市場は均衡していることになるのです(債券需要=債券供給=20万円)。
また、貨幣供給=70万円、債券供給=30万円、貨幣需要=80万円、債券需要=20万円である場合は、貨幣市場で超過需要=80-70=10万円が生じていますが、その裏返しとして、債券市場では超過供給=30-20=10万円が生じていることになるのです。
 以上の理屈から、貨幣市場の需給の交点を境に、債券市場の人気不人気(超過需要と超過供給)が入れ替わるのです。このように、貨幣市場と債券市場が裏表(うらおもて)の関係にあることを「ワルラス法則」と言います。
 もう少し詳細な内容は、問題集の第13講p.31の<補足14>に記載していますので、よろしければご覧ください。

・ 利子率の調整を行うのは政府ですか?
(回答)
 政府が利子率を動かすわけではありません。利子率は市場で決まります。
 この辺りの内容は奥が深いのですが、少し立ち入ってみたいと思います。参考までにご覧ください。
 この授業で考えているような基本的なマクロ経済学のモデルにおいて、利子率とは、既発債である債券の利回り(金利)のことで、その利回りはその債券に対する需要と供給の関係で決まります。(ここの内容が上記の「利子率は市場で決まります」に対応しています)
 一方、新発債は財務省が実施する入札(オークションのイメージです)によって、国債価格や国債の利回りが決まり、銀行や証券会社などに販売されていきます。財務省としてはなるべく国債を高く買ってくれる(もしくは、なるべく低い利回りで買ってくれる)相手に国債を販売したいですので、この入札では、国債の価格を高く(国債の利回りを低く)提示した機関に国債が販売されていきます。
 このように、政府にはなるべく利回りを低くしたいという気持ちがあることから、この気持ちを授業スライド26の政府の心の声に反映してみたということなのです。

第14講 IS-LM分析(2)

 貨幣市場から「LM曲線」を導出し、IS曲線と合わせてIS-LM分析をしていきます。

・ 授業動画を見る(計34分35秒)

1.LM曲線の導出9分03秒
2.LM曲線の右シフト8分10秒
3.IS-LM分析17分22秒

・ 授業資料のダウンロード

授業スライドノートなしノートあり
小テスト問題解答
問題集問題解答

・ みんなの質問

クリックして表示(質問16件あり)
・ LM曲線が右シフトする要因に減税も含まれますか?
(回答)
 減税(T↓)の場合は、IS曲線の右シフトになり、LM曲線は動きません。(詳細は第12講の動画で解説しています)
 減税は、家計の可処分所得(要は、自由に使えるお金のこと)を増加させることになり、それによって、家計は財・サービスに対する需要である消費を増加させます。
 つまり、減税は財(・サービス)市場に直接的に影響することですので、IS曲線に関する内容になるのです。

・ 貨幣需要の増加もLM曲線を左方にシフトさせると聞いたことがあるのですが、一体どのようなメカニズムでしょうか?
(回答)
 今回の動画では説明してない箇所にはなりますが、この動画までの知識で十分理解できる内容になります。
 結論から言うと、
国民所得Yの増加が原因ではない場合の貨幣需要曲線Lの右シフトが起きれば、LM曲線が左シフトします。
 解説を書きましたので、次の手書きのメモをご覧ください。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/01/note20210119.pdf
 メモ中の左図で国民所得Yを一定としている理由は、Yの値を動かしてしまうと、貨幣需要曲線Lが動いてしまい、それはLM曲線が右上がりであるという理屈を説明したときの状況になってしまうためです。

・ Yが増加した時の貨幣需要曲線が右シフトすることについては、給料が増えて取引的動機と予備的動機が高まる、という説明をしていただきましたが、Yが増加した時にrが上昇する具体的なイメージが掴めません。どのような理屈なのでしょうか?
(回答)
 国民所得Yが増加したときになぜ利子率rの上昇するのかということに関して、直観的な理屈の説明をさせていただきます。
 給料(Y)が増えると、より多くの商品を買うために、人は現金での保有を増やそうとします(L1↑)。そして、手元の現金を増やすために銀行からお金を引き出す人が増えます。その結果として、銀行としてはお金を預けて欲しいので、少しでも金利(r)を上げようとすることになるのです。

・ 金融政策によりYが増える流れについて、利子率rの低下により投資Iが増えるのでIS曲線が右にシフトする、と考えるのは正しくないでしょうか?
(回答)
 よい質問ですね。分かったと思っている方でも、この質問に答えられる方はあまり多くないのではないかと思いました。
 結論は「正しくない」です。
 利子率が低下して投資が増えるというのは、IS曲線が右下がりであることの理由だからです。
 改めて、なぜIS曲線が右下がりだったかというと、利子率が低下したときに投資が増加し、その投資の増加により国民所得を増加させるからでした。
 つまり、金利の変化で投資が変化するという現象は、IS曲線が右下がりである所以であり、IS曲線の右シフト要因には決してならないのです。
(ここからは応用の話になります)
 しかし、注意しなければならないことがあります。この授業のスライド2で投資関数を
  I=-a・r+b
としていますが、このbの部分のことを「独立投資(基礎投資)」といいます。
 この独立投資bとは、金利の変化には関係のない投資量(だから「独立」投資)のことなのですが、独立投資bの値が増加すればIS曲線は右シフトします。式で確認してみると、
  Y=C+I+G
  Y=cY+C0+(-ar+b)+G
  ar=-Y+cY+C0+b+G
  ar=-(1-c)Y+C0+b+G
  r=-(1-c)/a・Y+(C0+b+G)/a :IS曲線の式
 これは財市場均衡条件から得られているのでIS曲線の式ですが、傾きがマイナスになっていることから、IS曲線の式が右下がりの直線で書けていることが分かります。
 そして、この式において、独立投資bの値が増加するということは、IS曲線の式の切片の値が増加することですので、IS曲線は上シフト(右シフト)することが分かるのです。(bの増加は、利子率rを一定として投資Iを増加させ、国民所得Yを増加させることができるからIS曲線は右シフトする、と解釈してもいいです)
 まとめると、「金利が低下して投資が増加することは、IS曲線の右シフト要因にはなりませんが、独立投資が増加することは、IS曲線の右シフト要因になる」ということです。

・ (直前の質問に関連して)つまり、独立投資bのようなIS曲線にとっての外生変数が変化したらシフトすると考えられるが、Yやrは内生変数なのでこれらが変化しても曲線の上の点の移動に過ぎない、ということですか?
(回答)
 端的な解答としては、まさにその通りです。
 独立投資bは外生変数なので、bの変化によりグラフがシフトすることになります。(ちなみに、bは利子率の影響を受けない投資量ですので、アニマルスピリッツによりbは増加したり減少したりすると解釈できますね)
 ところで、Yとrが内生変数と書かれていますが、投資Iも内生的に値が決まりますので、投資Iも内生変数に分類されますよ。(同様の理由で、例えば、消費Cも内生変数です)

・ 財市場、貨幣市場って何なのかが、いまいち掴めません。
(回答)
 私は財市場や貨幣市場のイメージを掴むには、現実のデータを見ることが一番だと考えています。
 財市場はGDP統計(国民経済計算)、貨幣市場はマネーストック統計が対応しています。
 問題集の第9講でGDP統計と財市場の関係について詳細に記載していて、第13講の<補足2>でマネーストック統計に触れています。これらを記載した理由は財市場と貨幣市場のイメージを持ってもらうためですので、ぜひご一読いただければと思います。

・ IS曲線が右下がり、LM曲線が右上がりになる直観的な理由とは何でしょうか?
(回答)
 まず、IS曲線が右下がりである理由について、まず、利子率rが下がると考えた場合、(設備)投資Iが増加します。これは、工場や機械設備といった「財」に対する需要が高まることを意味しますので、その需要を満たそうとして生産が増加します(Yが増加)。この状況を表したのがIS曲線が右下がりだということです。
 それに対して、LM曲線が右上がりである理由は、まず、国民所得Yが上がると考えた場合、取引的動機に基づく貨幣需要L1が増加します(これは、所得が増えたので、資産のうち、貨幣として持っておく分を増やし、債券の保有を減らすということです)。これによって、債券の需要が減りますので、債券市場で超過供給が発生し、債券価格が下落します。債券価格の下落は債券の利回り(利子率r)が上がることを意味していますので、結局、国民所得Yが上がって、利子率rも上がったということになります。この状況を表したのがLM曲線が右上がりだということです。
 上記の説明も結局は、授業で説明したことを少し角度を変えて見ているだけです。(授業中の説明がエッセンスを掴んでいますので、それ以外の説明のしようがないという事情もあります)
 ところで、次のように式の形からIS曲線が右下がりで、LM曲線が右上がりだと説明するやり方もあります。関数の考え方を使うので、ややこしいと感じる場合は飛ばしてください。(以下の式中の括弧は、関数を意味する括弧です)
  財市場均衡条件:Y=C(Y)+I(r)+G
 仮に、Yが増加したとすると、左辺が右辺よりも大きくなってしまいます(限界消費性向c=0.8としたとき、Yが1だけ増加すれば、左辺は1だけ増加、右辺は0.8だけ増加で、結局、左辺の方が大きくなります)。すると、右辺を増やさないと財市場が均衡しないので、rを下げて、投資Iを増やせば、右辺を増やすことができて、財市場を均衡させることができます。これはIS曲線が右下がりであることを表しています。(このように式から判断する方法なので、先にYを増加させるストーリーを考えても、先にrを増加させるストーリーを考えても、どちらでも構いません)
  貨幣市場均衡条件:M/P=L(Y, r)
 仮に、rが上昇したとすると、貨幣需要Lは減少しますので、右辺が左辺よりも小さくなってしまいます。そのため、右辺を再び大きくするには、Yを増加させて、貨幣需要Lを増加させることで、再び貨幣市場を均衡させることができます。これはLM曲線が右上がりであることを表しています。
 このように、式から判断する方法はシンプルで良いのですが、本質的なことが理解しづらいですので、この回答の最初に書いた説明で理解した方がよいのです。

・ IS曲線を導出するときはrを先に動かすのに、なぜLM曲線を導出するときはYを先に動かすのですか?
(回答)
 財市場のみを考えた場合はrが外生変数になるので「外生変数であるrが動いたら…」を先に考えるが、貨幣市場のみを考えた場合はYが外生変数になるので「外生変数であるYが動いたら…」を先に考えるのです。(外生変数については、第0講「経済数学入門」で解説しています)
 ただ、外生変数と言われてもあまり馴染みがないと思いますので、少し説明の仕方を変えます。
 例えば、ミクロ経済学で学んだ需要曲線と供給曲線の両方が描かれたグラフを目の前にして、いきなり「価格が変わったら…」と言われると、「え?どういうこと?需要曲線と供給曲線のどちらがシフトしたの?」と逆に質問したくなりますよね。つまり、価格は均衡点で実現するものなので、最初に「価格が変わったら…」と言われると意味不明になるのです。これが、最初に「景気がよくなったら…」と言われていたとすると、「需要曲線が右にシフトして、価格が上昇する」と分かるのです。つまり、需要と供給の分析において、価格(や数量)は結果として決まるものなのです。
 では、財市場や貨幣市場の話に戻ります。
 財市場の均衡点では均衡国民所得、つまり国民所得Yが決まります。そのため、財市場を考える際に、最初に「Yが変化したら…」と言われると意味不明になるのです。それに対して、最初に「rが変化したら…」と言われると財市場でのYの動きがわかるのです。
 逆に、貨幣市場の均衡点では均衡利子率、つまり利子率rが決まります。そのため、貨幣市場を考える際に、最初に「rが変化したら…」と言われると意味不明になるのです。それに対して、最初に「Yが変化したら…」と言われると貨幣市場でのrの動きがわかるのです。
 こういった事情があるため、「IS曲線を導出するときはrを先に動かし、LM曲線を導出するときはYを先に動かす」ということになるのです。

・ rが上がるとYが下がるという面(財市場)があり、一方でYが上がるとrが上がるという面(貨幣市場)もあって、最終的にはある値に落ち着くから、その均衡するときの値を求めるのが「IS-LM分析」ということなのでしょうか?また、rとYの関係は直線的とは限らないですよね?
(回答)
 その通りです。
 最終的にはある値に落ち着くというのは、問題集第14講の<補足3>が本質的に重要なことになります。財市場と貨幣市場を考えたときに、IS曲線とLM曲線の交点に経済は向かっていくと考えられるので、その交点の座標を求めることに意味があるのです。
 IS曲線やLM曲線は直線である必要はなくて、曲線と考えた方がより一般的ですね。

・ IS-LM分析と完全雇用国民所得は何か関係がありますか?
(回答)
 完全雇用国民所得とは、完全雇用時における国民所得Yのことですが、完全雇用国民所得は「労働市場」で決定されると考えます(完全雇用国民所得の詳しい説明は、問題集第10講p.5をご覧ください)。
 IS-LM分析ではそもそも労働市場を考えていませんので、IS-LM分析をして完全雇用国民所得の値が決まるものではありません。そのため、IS-LM分析の中で完全雇用国民所得を登場させるには、完全雇用国民所得をある値の定数だと仮定して登場させざるを得ません。 完全雇用国民所得をある値の定数だと仮定した場合、IS曲線側(財市場側)における45度線分析において、インフレ・ギャップやデフレ・ギャップという論点に繋がっていきます。インフレ・ギャップやデフレ・ギャップの詳細については、問題集第10講のpp.5-6に記載していますので、そちらをご覧ください。

・ IS-LM分析の理論上は、財政拡大と金融緩和を同時にやり続ければ、均衡利子率は変わらないまま均衡国民所得が無限に上昇するという理解で合っていますでしょうか?
(回答)
 結論は「完全雇用国民所得までは実質GDP(均衡国民所得)を上昇させることができる」です。
 IS-LM分析では生産要素をまったく考慮していません。(次に学ぶAD-AS分析、特に、AS曲線で労働という生産要素を考慮することになります)
 そのため、IS-LM分析だと、ご指摘のように拡張的財政政策と金融緩和政策で際限なく国民所得(生産量)が増加するように思えてしまいます。
 しかし、労働をはじめとする生産要素の存在量には上限があります。生産要素の上限が完全雇用ですので、完全雇用国民所得までは均衡国民所得が上昇すると考える必要があるのです。(完全雇用国民所得の詳しい説明は、問題集第10講p.5をご覧ください)

・ 現実には、金融政策として中央銀行による金利操作がありますので、貨幣供給の増減だけでなく金利操作によってもLM曲線を変化させることができるのではないでしょうか?
(回答)
 ご指摘のように、中央銀行が目標の金利水準を設定し、そこに金利を誘導しようとする金融政策もあります。(日銀は「金利ターゲット方式」と呼んでいます)
 この政策をIS-LM分析の枠組みで分析しようとすると、利子率の目標水準でLM曲線を水平とせざるを得なくなってしまいます(IS曲線は通常通りの右下がりの曲線です)。
 しかし、国民所得Yが大きくなるほど、中央銀行は目標の金利水準を上昇させていくことが経験則として知られています(これを「テイラー・ルール」といいます)。国民所得Yが大きくなればなるほど、中央銀行は投資を減少させることで景気の過熱を抑制しようとし、目標の金利水準を高めようとするからです。 このような、国民所得Yと目標の金利水準の右上がりの関係をMP曲線といいます。(MPは、Monetary Policyから由来します)
 したがって、金利ターゲット方式を分析するにはIS-LM分析ではなく、IS-MP分析をする必要があるのです。

・ ケインズ経済学と古典派の考え方の違いについて、財市場均衡条件はこの両者でどう違うのでしょうか?わからなくなった理由は、古典派においては財市場で利子率が決まるということを聞いたからです。また、古典派では拡張的財政政策を行なっても利子率が上がるだけで財政政策に効果を持たない、ということが理解できません。
(回答)
 私の授業では、まだマクロ経済に対する古典派の考え方について解説していないですが、ごく簡単にお答えさせていただきます。
 マクロ経済学で登場するケインズ派と古典派の考え方の違いについてです。
 財市場均衡条件式はどちらも同じY=C+I+Gです。(輸出入を入れても構いません)
 そもそも財市場均衡条件は総供給Y^S=総需要Y^Dですので、この式自体はケインズ派であろうが、古典派であろうが、新しい派閥が登場したところで修正の余地はありません。
 次に、古典派では財市場で利子率が決まるということに関してですが、古典派の場合は完全雇用を前提とし、生産要素を労働のみと仮定すると、国民所得Yが完全雇用国民所得Y_F(Yの右下にF)の水準で決まってしまいます。つまり、Y=Y_Fです。
 それに対して、ケインズ派の場合は、45度線分析(財市場)で均衡国民所得が決まると考えていました。このように、古典派では国民所得が財市場ではなく労働市場で決まってしまうのです。
 では、古典派の場合、財市場で何が決まるのかというと利子率rが決まることになります。
 Y=Y_F、消費関数C=C0+cY、投資関数I=a-brを財市場均衡条件に代入すると、
  Y=C+I+G
  Y_F=C0+cY_F+a-br+G … ①
となり、①式は利子率r以外はすべて定数(や外生変数)のみですので、利子率rの値が求まってしまいます。
 これが、古典派の場合は財市場均衡条件から利子率rが決まるということなのです。(ちなみに、財市場は見方を変えれば、貸付資金市場になるので、古典派は貸付資金市場で利子率rが決まるという言い方をすることもあります)
 ところで、①式を計算すると、
  r={-(1-c)Y_F+C0+a+G}/b
になります。ここで、拡張的財政政策(G↑)をしてみてください。利子率rの値が上昇するだけで、国民所得YはY_Fのままで財政政策に効果がないことが分かるのです。

・ 刷ったお金を直接国民に定額給付金等で供給するといったことも金融緩和政策に含まれるのでしょうか?
(回答)
 日銀が刷ったお金を直接国民に配ることはなく、例えばコロナ禍において実施された一人当たり10万円を配布する特別定額給付金は、政府から給付されるため財政政策に相応します。
 財政政策の財源は税収か国債発行かですが、財源が税収の場合は国民からお金を吸い上げてから特別定額給付金を配りますので、国民全体としてのマネーストック(より正確にはハイパワードマネー)の量は原則的には変わりません。(少し応用の話をさせていただくと、実際には現金預金比率が変化し、貨幣乗数が上昇してマネーストックが増える可能性があります)
 財源が市中消化による国債発行も同様に、市中消化とは国債を購入するのが国民や民間企業ということですので国民全体としての貨幣量に変化はありません。(国債を中央銀行が購入する場合(国債の中央銀行引受)はマネーストックが増加します)

・ 日銀が刷ったお金で大量に国債を買って民間銀行に貨幣を供給することは金融緩和政策というのでしょうか?
(回答)
 日銀が刷ったお金で国債を買って民間銀行に貨幣を供給することを「国債の中央銀行引受」といいますが、これは金融緩和政策の一種になります。

・ IS-LM分析を深く理解した場合、そこから派生してどんなことに詳しくなるのでしょうか?例えば、金融に詳しくなったり、投資に強くなったりするのでしょうか?
(回答)
 IS-LM分析はあくまで経済の動きを知る上での「土台」だと思います。
 景気(国民所得Y)がどう動くのか、金利(利子率r)がどのように決まるのかといった、経済の動きの大前提をIS-LM分析を通じて理解することになります。
 金融を考える上でも株式投資をする上でも、IS-LM分析の考え方を知っているに越したことはないかもしれませんが、IS-LM分析を知らなくても、株式投資は出来ますし、金融関連の本を読むことはできます。理解できることの深さが変わってくるだけだと思います。
 数学や統計学を極めてなくてもパソコンがあればデータ分析はできるが、数学や統計学をよく知っていれば、データ分析で得られた結果への理解がより深くなることと近い気もします。
 IS-LM分析などマクロ経済学の知識の土台を築いた上で、金融や投資のことを学ばれると、見える景色が少し色鮮やかになります。その変化を必要か不必要かを判断されるのは人それぞれではないでしょうか。

第15講 ゲーム理論入門

 「ゲーム理論」の基本を解説していきます。日常生活にも応用できる戦略的思考が学べます。

・ 授業動画を見る(計52分00秒)

1.囚人のジレンマ16分04秒
2.ナッシュ均衡17分13秒
3.展開形ゲーム18分43秒

・ 授業資料のダウンロード

授業スライドノートなしノートあり
小テスト問題解答
問題集問題解答

・ みんなの質問

クリックして表示(質問5件あり)
・ かけこみのおっちゃんたちはゲーム理論を理解して、瞬時に状況を分析していたのか。
(回答)
 おっちゃんたちがゲーム理論を理解しているというより、人間の行動を理論化したものがゲーム理論だと考えた方が良さそうです。

・ 最適反応を求める際に、比べる利得が同じ値だとどう考えるのでしょうか?
(回答)
 比較する利得が同じ値の場合は、両方の数値に丸を書くことになります。(これに関連した内容は、問題集の第15講p.6で説明しています)

・ 動画で出てきた囚人のジレンマの左上の戦略の組み合わせは「パレート最適」と呼んでいいのでしょうか?
(回答)
 囚人のジレンマの利得表について、ご指摘の箇所(A1, B1)(利得:(-2, -2))は「パレート最適」で合っています。
 ちなみに、左下(A2, B1)(利得:(-1, -10))と右上(A1, B2)(利得:(-10, -1))もパレート最適になります。「2人の利得を同時に上げることができない箇所」はパレート最適になるのですが、より詳しい説明は問題集の第15講のpp.6-7をご覧ください。

・ 展開系ゲームに関する質問なのですが、コンビニA店とB店の利得はそのままの場合、B店が先攻でも先読み法は使えますか?
(回答)
 はい。B店を先行にするようにゲームの木を書き直しても、先読みで解けます。
 実際にB店を先行にしてみると、スライド19のゲームの木では、B店を先行にしても(偶然にも)A店を先行にした場合とゲームの解は同じになりますね。
 例えば、B店を先行にして、B店の「150」という利得の箇所を「90」に変えてみれば、ゲームの解は「B店は大阪に出店した上でA店は東京に出店する」ことになり、A店が先行の場合とは結果が異なりますので、ぜひ一度ご確認してみてください。

・ 授業で登場した環境対策の例で、仮に、B国が「対策をとる」とき、A国の利得が「対策をとる:100」「とらない:101」とします。このように利得が僅差であったとき、あえて利得が低くなる方の戦略を選ぶことは考えられるのでしょうか?
(回答)
 利得がわずかな差しかない場合、利得の低い戦略も選び得ると考えた上でのナッシュ均衡を、ε-ナッシュ均衡(もしくは、ε均衡)といいます。詳細は専門書に譲りますが、「あえて利得が低くなる戦略を選ぶ」というよりは、「利得が低くなる戦略も選び得る」と理解した方がより正確です。また、「わずかな差ってどれくらい?」と思うかもしれませんが、絶対的な水準はなくケースバイケースになります。

・ みんなの囚人のジレンマ(こちら