ゲーム理論入門

 

第15講 ゲーム理論入門

 「ゲーム理論」の基本を解説していきます。日常生活にも応用できる戦略的思考が学べます。

・ 授業動画を見る(計52分00秒)

1.囚人のジレンマ16分04秒
2.ナッシュ均衡17分13秒
3.展開形ゲーム18分43秒

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授業スライドノートなしノートあり
小テスト問題解答
問題集問題解答

・ みんなの囚人のジレンマ

 この授業で説明した「囚人のジレンマ」は現実にも様々な状況で現れます。みなさんがYouTubeのコメント欄に書いていただいた「囚人のジレンマ」を抜粋して紹介します。

※ 仕組みは「みんなの質問」と同じです。詳しくはこちら

(1)講演や説明の最後に設けられる質疑応答の時間における囚人のジレンマ
登壇者に質問する際、自分の質問が的を射ない内容で、恥をかいてしまわないか心配だと考える人も多いだろう。しかし、仮に自分が的を射ない質問をしたとしても、他の参加者は理解が深まることが多い。つまり、他者が質問してくれるならば自分は質問しないことが最適反応になりがちである。皆が恥を恐れずに質問を出し合えば、全員の理解が深まるにも関わらず、恥をかくことを恐れてしまうせいで、誰も質問しない質疑応答の時間になってしまうのである。
(2)トイレットペーパーの買い占めにおける囚人のジレンマ
トイレットペーパーが生産されなくなるといったデマが流れ、人々による買い溜めが起こり店舗からトイレットペーパーが消えてしまうといった事態が起こることがある。しかし、買い溜めをしている人の中には、デマだとわかって買っている人もいる。その人たちは、トイレットペーパーが売り場にないと困るし、家に置いていても腐らないため、大勢の人が買っている今のうちに自分も買い溜めをする、という行動を選ぶのである。つまり、デマが真実かどうかに関わらず、人々は買い溜めをすることが最適戦略となり、大多数の人がトイレットペーパーが買えなくなるという囚人のジレンマに陥ってしまうのである。
[補足]エッセンスは「デマかどうかは関係ない」です。銀行の取り付け騒ぎも本質的に同じですね。
(3)修学旅行での夜の恋話における囚人のジレンマ
「2人で同時に好きな人を言おう」となったとき、一方の人だけが言えば、もう一方の人は自分の好きな人がバレずに相手の好きな人を知ることができるので最も得をする。また、相手が言わないのであれば、自分も言わない方が良い。お互いが言い合った場合は、結束が深まりお互い得をする。このとき、2人とも好きな人を言わないことがナッシュ均衡であり、囚人のジレンマに陥ることになる。
[補足]要は「秘密の話は簡単には言い合わない」ということですね。
(4)選挙における囚人のジレンマ
みんなが選挙にいけば制度改革ができるはずなのに、例えば若者は、自分が投票しても何も変わらないと思うので投票の手間賃を考えて、周りが投票しようがしまいが、自分は投票しないことが支配戦略となり、結果、全体の投票率が上がらず、時代の流れにあった制度が実現しない。
[補足]自らの投票が「大海の一滴」と考えることから生じる囚人のジレンマですね。
(5)宿題の分担における囚人のジレンマ
中学・高校時代の経験であるが、友達と協力して宿題をするときに囚人のジレンマに陥ることがあった。どちらも協力して宿題をすれば早く終わるにも関わらず、自分だけ楽をして相手に任せてしまい、結果的に宿題が終わらなくなってしまったのである。今考えれば、どちらも宿題をせず相手に頼ることが最適反応になってしまっていたと思う。
[補足]宿題をした分量に応じてお菓子がもらえるといったインセンティブを設定したり、自分の担当分を終わらせないとペナルティ―が生じるといったルール作りは一つの解決策です。また、今回の事例はビジネスにおいても当てはまることでしょう。(ちなみに、宿題の写し合いは良くないですよ)
(6)漁場における囚人のジレンマ
どの漁師も魚を捕れるだけ捕ってしまうと、魚が少なくなり、翌年以降の漁獲量が減ってしまう。みんなが魚を捕る量をセーブすれば、翌年以降にも魚が残ることになる。他の漁師が魚を多く捕ろうが少なく捕ろうが、自分にとっては魚を多く捕ることが最適反応になる。それは他の漁師にとっても同じことである。したがって、結果として魚が乱獲される状態(囚人のジレンマ)が実現してしまうことになる。
[補足]これは共有地の悲劇(コモンズの悲劇)と呼ばれる現象であり、上記のように囚人のジレンマの例として考えることもできます。共有地の悲劇に関しては、はじめよう経済学+(Plus)「第4講 公共財 その①」で解説しています。
(7)転売における囚人のジレンマ
転売がなくならないのは囚人のジレンマの状況ではないだろうか。あるアイドルのコンサートにどうしても行きたい人々を考える。正規ルートでチケットが買えないとなると、人々は少々高いお金を支払っても転売を生業としている人からチケットを購入することが最適反応となってしまう。転売が横行し、チケットの買い占めが起きている現状を社会にとってより悪い状況だとすれば、囚人のジレンマに陥っていると言えるだろう。

 

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渡辺隆裕(2008)『ゼミナール ゲーム理論入門』日本経済新聞出版社

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