・ 独占の具体例としてアーティストのグッズとかは当てはまりますか?普通のシャツと比べてアーティストのライブの記念品のグッズ(例えばシャツ)は特段高いので、独占であると言えますよね?(回答)
 そのように解釈をされて良いでしょう。
 あるアーティストのライブ記念Tシャツをたくさんの企業が作って売れるとなると価格は下がってしまいますが、実際にはレコード会社の発注によって独占的に供給されているされているのでしょうから、独占と考えて良いですね。
・ 需要曲線の傾きを2倍にしたら、限界収入が導出される直観的な理由を教えてください。(回答)
 自明なくらい直観的な理由はないのですが、理解のヒントになるようなことを書かせていただきます。
 需要曲線(P=a-bx)より、生産量xが1つ増えると、価格Pはbだけ減少することが分かります。つまり、生産量xが1つ増えるごとに、総収入TR=P・xは、
①P・x → ②(P-b)・(x+1) → ③(P-2b)・(x+2)
と変化していく訳です。
 これらの式の括弧を外しておくと、
①P・x
②P・x+P-b・x-b
③P・x+2P-2b・x-4b
となります。(①~③はすべて総収入を表していることに気をつけてください)
 生産量xが1つ増えたとき、①→②で、総収入はP-b・x-b(=②-①)だけ増えているので、限界収入は
  P-b・x-b …(*)
ということです。
 そして、さらに生産量xが1つ増えたとき、②→③で、総収入はP-b・x-3b(=③-②)だけ増えているので、限界収入は
  P-b・x-3b …(**)
ということになります。
 したがって、(*)から(**)にかけて、限界収入は-2b(=(**)-(*))だけ変化しているのです。これこそが限界収入(MR=a-2bx)の傾きが-2bであることを表しているのです。(限界収入曲線の傾きとは、生産量xが1つ増えたときに限界収入がどれだけ変化するのかということです)
 つまり、①P・xから②(P-b)・(x+1)にかけての総収入の変化よりも、②(P-b)・(x+1)から③(P-2b)・(x+2)にかけての総収入の変化の方がずいぶんと大きいのです。
 それは、②と③の差が、①と②の差よりもより大きいことは、③(P-2b)・(x+2)の式の形を見ても明らかです。(-2bと+2がかけ算される訳ですから)
 以上のことから、感覚的にも、生産量xを増やしていけばいくほど、限界収入がより減少していくことが分かるのです。(その減少の程度は、生産量xが1つ増えたときに価格が下落する程度(b)の2倍に(計算上)なっているということです)
・ 独占利潤とラーナーの独占度を求めるにはどうしたらいいのでしょうか?(回答)
 独占利潤やラーナーの独占度は、経済学用語集の方で扱う予定ですが、ここでも簡単に解説させていただきます。
 次の手書きの資料(以下URL)をもとに説明していきます。
https://introduction-to-economics.jp/wp-content/uploads/2021/06/note20210616.pdf
 まず、独占企業の利潤を「独占利潤」といいます。
 手書きの資料には、授業スライド13に独占企業の平均費用曲線ACを加えた図が描かれています。このようにAC曲線があれば総費用TCが分かりますので、AC曲線を書き加えたというわけです。
 あとは、図で書いたように独占利潤を求めてください。
 次に、ラーナーの独占度も手書き資料のような式で書くことができます。
 ラーナーの独占度は独占の強さを表す指標でして、この値が大きければ大きいほど、独占の度合いが強いということになります。
 例えば、完全競争市場とは独占状態からは最もほど遠い状態ですので、独占の強さ(ラーナーの独占度)が0になるはずです。
 完全競争市場においては、価格Pの値が限界費用MCの値と等しくなりましたので、P=MCが成り立つということでした。
 これをラーナーの独占度の式に代入すると、分子が0になりますので、
  (P-MC)/P=0/P=0
 このように、完全競争市場においてはラーナーの独占度が0であることが分かります。
 また、独占市場においては、価格Pの値が限界費用MCの値よりもどれだけ大きくなるかで、独占の度合いを表しているということになるのです。(P>MCで、このPとMCの差が開けば開くほど、独占の度合いが強くなるということですね)
 ところで、ラーナーの独占度は、1/ε_D、つまり、需要の価格弾力性の逆数で書けることも知られています。
 これは、ε_Dの値が小さいときに、ラーナーの独占度が大きいというわけですが、ε_Dの値が小さいとは、値上げに対して需要があまり減少しない、言い換えると、この企業が作っている財と競争関係にある財(代替的な財)があまり存在していないということを表しています。つまり、需要の価格弾力性が小さいということは、独占の度合いが強いと解釈をすることができるのです。
・ ミクロ経済学の教科書を読んでいると、需要曲線が完全競争市場の企業では水平になっていて、独占企業は右下がりの需要曲線になっていました。これはどうしてでしょうか?(回答)
 確かにそこは混乱しやすい点ですね。
 ご指摘のように、完全競争市場での企業が直面する需要曲線が水平線として書かれているケースがあります。
 実は、私の動画授業でも水平線となる需要曲線は(こそっと)登場しています。はじめよう経済学+(Plus)「第1講 市場(続)」の講義スライド10(タイトル「(復習) 利潤最大化」)をご覧ください。ここには価格P*の高さで赤い水平線が書かれていますね。この赤い水平線が需要曲線なのです。より正確には、「個別企業が直面する需要曲線」と呼んだ方が良いでしょう。(特に決まった正式名称はありません)
 つまり、この需要曲線は通常の(市場)需要曲線とは異なるのです。(「第1講 市場(続)」で学んだ個別需要曲線とも異なります)
 「個別企業が直面する需要曲線」とは要するに、ある1つの企業にとっても需要曲線というイメージになります。どういう意味かというと、先程の講義スライド10において、生産量はxに決まりますが、x*はこの企業の生産量(供給量)でもあり、この企業の財を購入する消費者の需要量にもなるのです。
 このように、赤い水平線には需要曲線としての役割もあるため、「(完全競争市場において)個別企業が直面する需要曲線」と呼んでも良いことになるのです。
 また、独占市場においては、個別企業が独占企業そのものになりますので、独占企業が直面する需要曲線=市場需要曲線になります。なので、独占企業が直面する需要曲線は右下がりの市場需要曲線となっているのです。
<補足>
「個別企業が直面する需要曲線」を「個別需要曲線」と呼んでいる本もありますのでご注意ください。
・ 完全競走市場において、企業がプライステイカーとして価格Pを受け入れるしかないとのことですが、この経済的解釈が今一釈然としません。(回答)
 企業がプライステイカーとして価格を操作することができない理由については次の2つのポイントがあります。
①完全競争市場において、価格は市場で決まる。(需要と供給のバランスで価格が決まると考えるのが基本的な考え方であるため、企業が価格を自由に変更できてしまうと、この考え方との整合性が崩れてしまうことになります)
②完全競争市場では、ある財を生産する企業はたくさんいるため、1つの企業がどれだけたくさん生産しても、もしくは一気に減産してもその財に対する市場全体の供給量には影響を与えないため、市場価格を動かすことができない。
 プライステイカーを考えることの経済学的解釈は以上になりますが、プライステイカーを仮定することの意味としては分析を簡素化するといった役割も大きいです。
 完全競争市場については、はじめよう経済学「第6講 費用」のその①の動画でも解説しておりますので、よろしければご覧ください。
・ 完全競争市場でも、(売れる売れないは置いといて)企業が価格(売る値段)を自由に決めることはできるのではないでしょうか?(回答)
 いえ、完全競争市場では、企業は価格を自由に決めることが出来ないと考えます。
 そのような企業は、市場で決まった価格を受け入れた上で、その価格で販売すると想定します(企業はプライステイカー(価格受容者)という存在になります)。また、市場で決まった価格で販売しますのですべて売れると考えます。
 これが現実的か非現実的かという議論は、また別の話になります。(感覚としては正直、非現実的ですよね)
 ひとまずこのような最も単純な経済モデルを考えて議論をスタートするということに価値がありますので、より複雑な議論はさらにその先の内容だとお考えいただければと思います。